20 再開・再会
日が昇る。
太陽のまぶしい光が俺の顔を照らす。
心は完全には晴れなかったが、それでも歩む。
重心が左に傾ているので歩きにくい。
(慣れるまで時間がかかるな。)
利き腕が失われたことで少々の間生活に支障が出る。
(こんな軽くとらえていいのかな。でもこれが贖罪の一部なのかもしれないな。)
だらだらと歩いていると街道に出た。
(あぁ、こんな道を歩いていなければ。)
そばには微量ながら血痕が残っていた。
一人になってから気が上がらない。
ずっと誰かといて慣れてしまったからかもしれない。
「すみませーん!」
(?)
後方から声が聞こえた
なんかうるさい。
「退いてくださーい!」
(馬車か。)
避けようととしたが左に体が傾いて倒れてしまった。
(やべっ。)
もう感覚が薄く特に声に発することはなかった。
馬車が急停車して???がこっちに向かってきた。
「おい、邪魔、ん?」
「すみません。今起き上がります。」
できる限り申し訳ない感じで言った。
実際に思っているよ。
ただ腕が一本しかなくなかなか起き上がるのに苦労した。
「ごめん。腕が、ないのか。」
「迷惑をかけました。失礼します。」
俺は馬車を後に立ちさ、肩をつかまれた。
「待ってくれ、どうせだったら乗せようか?」
(上から目線だな。)
実際に歳は俺よりも上そうだ。
「代金は?」
「おいおい、せっかく乗せてやるっていうんだからもう少し元気そうに言ってくれよ。」
「すみません。」
「おい、俺のコートやるから。それで隠せ。少しでも気を晴らせ。」
(隠したって、逃げることと同義なんだよ。)
この一連はすべて自分が招いたことだが。
「とりあえず乗れ。」
「どこに行くんですか?」
「ゾルバンっていう国だ。知っているか?」
「知らないな。」
(確か金を握らせた守衛から聞いた覚えが。)
採算回収のためにちゃんと聞いていた覚えがある。
「なぁ獣人のところへは行ってくれないのか?」
「さすがに無理だ。」
「そうか。」
(そうだよな。そう都合よく世の中は回らないよな。)
大体こういうのだと都合よく来てくれるんだけどな。
「乗れ。」
「はい。」
乗れとは言われたものの片腕がなく引き上げてもらうしかなかった。
「すみません。」
「いいよ気にしなくて。」
そのまま馬車に乗り走り出した。
前に乗せられたので風をもろに受ける。
「今まではどんなところを旅していたんだ?」
「旅?そんなたいそうなものじゃないですよ。」
しかし不思議そうな顔をしてくるので仕方なく答える。
(かわいくねーよ。)
一応年齢は20代前半ぐらいだが。
「なんか、ようわからん姫に巻き込まれ、エルフのところで絶望し、カルト集団に腕を持っていかれました。」
「えっと、つまり散々な旅だったってことだな。」
「まぁはい。」
(ほんと異世界に来てから散々だ。)
ほとんど、というか全部自分が招いたことだが。
「あんたのクラスは何だ。」
「僕はノーマルです。」
「なるほど。どうして一人で旅をしているんだ?」
「あなたも弱いって言うんですか?」
気まずい雰囲気に包まれるかと思ったが、風が全部持って行った。
「いや俺も同じだ。うちの家業を継いだ感じだ。親父がいい歳でな。」
「何歳ですか?」
「いま70ぐらいかな。」
(てことは50に産んでんのかよ。)
とても元気がある。
「三男だったし、兄貴たちがいいスキルを持っていたから誰も親父を継がなかったんだ。」
「やっぱスキル社会なんだな、この国は。」
「国っていうか世界がそうだな。」
(差別社会だな。)
無意識に差別をしているのだろう。
当たり前になっていて誰も反抗しようとしないのだろう。
「壊したいですね、そんな社会を。」
「無理だな。どっかの国で何十年か前にあったらしいが結局は強いスキルに潰されたよ。」
笑い、というよりかは悲しみの混じったものだった。
(それでもバカにはしているんだろうな。)
「ゾルバンはどういう国なんですか?」
「学園ってのがあるぞ。俺は平民だから普通科だったけど、それなりに楽しめたぞ。」
「はぁ貴族社会ですか。大変ですね。」
「まぁ下に見られるしな。」
(戦闘系のスキルを持ったものが勝ち上がるんだろうな。)
「お兄さん方たちは?」
「兄貴たちは母のスキルを継いでいたから貴族科に入っていたぞ。」
「え?貴族しか入れないんじゃ。」
「母が貴族だったからな。実家とは縁を切られているそうだけど。」
(駆け落ちってやつか。少し違うか。)
実際にそんな奴と会うとは思わなかった。
「世の中広いですね。」
「だろ。」
木々が激しく揺れている。
風も強くなってきた。
「そういえばあなたは何を運んでいるんですか?」
「ああ、人、かな。」
(何言っているんだこいつは。)
「人だよ。愛玩動物、とか言って貴族に売れるんだ。」
(おれも、売られるのか。)
運命を悟り受け入れるしかなかった。
「安心しろ、男は売れん。これはアリセインから仕入れたんだ。余っていたやつをな。」
「奴隷。」
「そうだ。いい商売だぞ。俺の唯一のスキル『マニピュレイト 』、人を操ることができる。もともとは詐欺師っていうクラスの奴だがな。」
(詐欺師。そんなクラスがあるのか。)
そして前に言っていた彼の言葉を思い出す。
「貴族と、結婚?まさか。」
「そのまさかだよ。俺の親父は詐欺師だ。このスキルはスキルを使用しても他人にバレることはないからな。」
「俺を殺すのか?」
「さすがにな。俺は攻撃系のスキルを持っていないからな。町も近いし逃げられるのがオチ。」
(こいつの狙いは何だ?)
にやにやと気持ちの悪い笑みでこちを見つめてくる。
先ほどの印象とは大違いだ。
「だからお前に一人やるよ。口止め代わりだ。不便だろ、片腕がないと。」
奴隷商人に会うなんて、もうこりごりだ。
「俺を操って殺すこともできるだろう。」
「まぁ素直に受け取っておけ。その方が面白いだろ。」
素直に従うしかなかった。
(あまりいい気分ではない。)
気乗りしないが奴隷たちを見せてもらった。
「どれにする?」
つばの混じった声が俺に話しかけてくる。
(本当に世界は広いな。)
怯えた目で女性たちが俺を見つめてくる。
(あっ、え?)
そこには以前見かけた奴隷がいた。
(イグサって子、俺が奴隷商人に金を盗られたときに見たぞ。)
「こ、この子にする。」
「そうか。こいつは特に売れ余っていたらしい。」
おびえる表情で俺を見つめている。
「ごめん、全員救ってやれなくて。」
声も出ないのか彼女らは下を向いている。
「では契約をする。」
なんかよくわからんことを唱え始め、終わった。
「契約完了だ。これでこいつはお前に逆らうことができなくなった。」
(これが奴隷か。)
異世界物でよくあるが、まさかこんなところでとは思わなかった。
「じゃ、ゾルバンまで送るぞ。」
ウマが地面を蹴る音が聞こえる。
とても悲しい旋律のように。
虚無の中、商人が俺に告げた。
「おい、着いたぞ。一応俺は顔見知りだから出られるが、再入国はできないと思え。」
「顔見知りだから奴隷を輸入できるのか。」
「一応合法だが、あまり人に見せつけるなよ。」
「売った本人が何を。」
買った自分もどうかと思うが。
(だけどサポートは必然だった。俺の生活に支障が出ているからな。)
門の守衛に通してもらい馬車を降りた。
「じゃぁな。」
「死ね、奴隷商人。」
残されたのは俺とイグサ。
「とりあえず行くよ。」
「うん。」
重心が安定しないので手で引っ張ってもらいながら進んでいった。
(申し訳ないけど、柔らかい。)
女性関係?そんなものはない。




