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第二章 第四十三話「唯一の打開策」

浜辺は制圧したが、一番の問題は上空の黒い渦。


禍々しい魔力に、降り立ったのは漆黒の闇夜すら呑み込まんとする黒い竜だった。

竜はこちらを見つけたのか、海に降り立つ直前に翼をはためかせてこちらに飛翔する。

それはたった一息で俺達の頭上を駆け抜ける。


刹那、竜の高速飛翔により巻き上がった風が海からせり上ってくる。


-早いッ!


その威力は海を乱暴に割りソニックブームと化す。


ダメだ。恐怖に押されて反応が遅れた。動けない。


「はぁあああああッ!」


だがすぐ動いていたのはフウカ。折れたレイピアを思いっきり振りかざして浜辺に暴風の壁を生成。気絶させた男女を守る。


瞬間、押し寄せるソニックブームが壁に激突。凄まじい轟音が壁を数千と殴打して軋ませる。

フウカは魔力が尽きないようにとレイピアを何度も振り回して、壊れかけた風の防壁に魔力を注いで新たに造り変える。


だがフウカもいくら魔力が多いといえど限度がある。

それでも必死に彼女はレイピアを振り続けた。


どれほど経ったのだろうか。

もしくはほんの数秒の出来事だったのかもしれない。

永遠に続くとさえ思ったソニックブームは突如終わりを迎えて消えていく。


ソニックブームにより見えなくなっていた視界は晴れ、空には雲一つない夜空が待っていた。


「ふぅ~⋯⋯ウッ!」


フウカはようやくレイピアを振るのを止めると、限界だったのだろう、ふらふらして膝をつく。

駆け寄ると身体は小刻みに震えて目は虚ろに青ざめている。


「魔竜グランド⋯⋯とんでもねぇな」


隣のライドは薄ら笑いを浮かべてはいるが、余裕が無いのが見て取れた。


魔竜グランド。それがあの黒い竜の名前か。


「私も⋯⋯本で読んだ。魔物の⋯⋯最、に位置する。その、黒い、翼は⋯⋯死を招くとされる-別名”災い降り注ぐ(ディストピア)”」


息も絶え絶えに最後まで言い切ると、フウカは倒れ込んだ。


「フウカッ!」


咄嗟に抱えると、フウカは気絶したようだった。


折れたレイピアであれだけの衝撃に耐えたのだ。

それも一人で浜辺の人全員を守る為に。


「あれだけの攻撃、仕方ねぇよな」


ライドはせっせとフウカを俺から取り上げると、近場の被害が少なそうな所へ移動させる。


「さすがに増援呼んだ方が良くね?」


しかしサンライズさんはまだヴィランダさんと交戦中だ。助けなんて呼べない。


正直勝てる見込みはない。

だけど周りに協力してくれそうな人もいない。


俺が力無く首を横に振ると、「だよなぁ⋯⋯」と落胆しながらも、ライドはせっせと気絶している人を運び始める。


「お前もボサっとしてないで手伝えよ」


「お、おう」


俺は言われるがままライド共に人を運ぶ。


「できるなら崖上の街に運んだ方がいいんじゃないか?」


「アホか。そんな時間はねぇっての。お前は分からねぇかもだけど、別に魔竜グランドは去ったわけじゃねぇからな?魔力が上空からビンビン伝わってくるんだよ」


「げッ!?マジかよ!」


さっき飛び立っていったから、もう戻って来ないのかと。


「あれは久しぶりに生み落とされたから喜んでいるだけだ。そのうちに戻ってきたらまたここが戦場になる。俺はフウカみたいに皆も守る力なんて無いからな。そもそ戦闘の邪魔だしな」


「ふーん」


そうは言いつつもライドはガサツな態度とは対象的に丁寧に運んでいた。


最初は一人。そのうちに二人同時で運んで、次に三人。二人は担ぎ、もう一人は浮遊して-浮遊して!?


「ってか、人浮かんでね!?」


「ん?これが俺の魔力だからな」


物体に直接干渉せずにも触れることが出来る能力。

ライドはニタリとこちらに向いて笑った。


「お前は魔力感知すらできないんだっけ?ハハッ!」


「なるほどなぁ。姑息なライドにはうってつけだ」


「言ってろ。さっさと運べ」


適当ほざきながら俺たち二人はさっさと浜辺の人を運ぶ。

そしておおよそ人を運び終えた後。


「なぁ、俺たち二人でさっきの竜倒せるのか?」


俺は不安を口にする。


「無理だろ」


「はぁ!?」


ライドの反応に思わず声を荒らげた。


「え、じゃあどうするつもりなんだよ!?」


詰め寄る俺にライドはフッと表情を崩して笑った。


「そりゃあ、お前の必殺技だろ」


急に何言ってんだこいつ。

怪訝な顔をする俺にライドはそのまま耳元で囁く。


「聞いたぜ?お前-魔力が全く無いんだってな」


「なっ-」


振り返ろうとする俺をライドは手で制する。


「おっと!誰に聞いたのかなんて野暮な事聞かねぇでくれよ?」


その話はさっきサンライズさんとしたばかり。つまり-。


「お前、盗み聞きしてただろ」


ライドは正解と言わんばかりに指を鳴らす。


「呆れた。少しは嘘つくとかしてくれよ」


「まぁまぁ。おかげでお前の能力の事も聞けたしよ。で、その事で一つアドバイス出来るかなって」


ライドは人差し指を顔前に突き立てて話す。


「お前の力は”修復不可能、未完成な物を完璧な状態で形を成す事が出来る能力”なのかもって」


ライドは厭らしく半月のように口元が笑う。


「ん?どういう意味だよ」


「だからさ、お前の今手にしているそれは”完成まで辿り着かなかった武器”なんじゃないかって事」


ライドは続けて俺のネックレスを指で叩く。


「これだって魔力がない筈なのに形を成す事が出来る。お前の能力なんじゃないか?」


「つまり、”壊れてしまった”、”作りかけ”のものをリメイク出来るって事か?」


「ザッツライ!」


ライドは嬉しそうに手を叩いた。


「いやぁ、そんな都合のいい能力かな⋯⋯俺」


そうだったら嬉しいけど。あまりに自信がなく思わず目線は下を向く。


「巨人の大剣タイタン。実は大昔に魔力グランドを倒したとされる武器なんだよ。ちょうど今のやつな」


俺の心臓が静かにドクンドクンと大きくなっていくのを感じる。


ライドは「おっ?」と少し嬉しそうに呟いて続ける。


「伝説では、最後は海に沈んだ事になってるし、その破片くらいは何処かにあるんじゃないか?」


-つまり。


「⋯⋯もし、それに俺が触れたら-」


顔を上げる。

ライドはこちらを見てニッと笑っていた。


「お前はその巨人の大剣を手に入れる事が出来る!」


力強い言葉。それは俺を鼓舞していく。

そしてライドの後ろ-遠い空から、何か黒いものが見えた。


「おっ、噂をすれば何とやらだな」


ライドは何故か浮かれたように呟いた。


姿は見えず、ここからじゃまだ点のようにしか見えない。

でも少しずつ大きくなっていく。

間違いない-黒い竜だ。


刹那、ちょうどピンポン玉位にまで膨れ上がったかと思うと、先ほどの竜が街へと飛翔する。


「とりあえずは俺が相手だな。お前は海から武器を取ってこい!」


ライドはもうこちらを振り返らない。

目線は上空-黒い竜へと視線を向けたままだ。


黒い竜-魔竜グランドは空から街をぐるぐると円を描きながら回り、こちらを様子を伺っている。


「まだ来ないなら、今がチャンスだな」


ライドは調子に乗ったような舌なめずりをする。


「いやっ!言ったはいいけど、俺丸一日探したって見つからなかったんだぜ!?見つかるかなぁ?」


「アホか!今朝からお前が探してたのは”本体”だろ!?破片で良いんだ!それでお前は元の状態へと戻す事ができるんだから!」


確かに。それもそうだ。


「だけどフウカだって風圧防ぐだけで精一杯だったぞ!?行けるのか!?」


「あーッ!うるせぇ!俺はお前と違って魔力があるし、何より”姑息”だからな!安心しろ!」


ライドがそこまで言うなら信じるしかない。

なら一刻も早く探しに行くのが筋だ。


「すまん!行ってくる!それまで耐えてくれ!」


「あぁ!待ってるぞ!」


俺はライドを後目に夜の海へと駆けだす。

そしてすぐに海へと着水。


「冷たッ!」


だがそんなの構っている場合じゃない!


俺は服を下以外全てを浜辺に投げ捨てて、冷たい夜の海へと突っ込んでいく。


視界が効かない中、ジェットソードの噴射の微かな光を頼りに俺は巨人の大剣を探し始めた。

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