5-1 彼との出会い
皆さんお待たせしました
2章の開幕です
多分すぐに終わると思うので気軽にお読みください!
……村からレンカがいなくなって、早くも一か月が過ぎ去っていた。
あれからわたしは何も変わっていない。村の生活の維持に必要な裁縫をしているだけの日々。
精一杯村から外に出るという形で隣町まで出向いて探してみたけれど、どこにも見当たらない。人伝いにも宿屋でも聞いてみたりしたけれど、それらしい情報は何もなかった。
こうなったらと隣に住んでいるレンカの両親に訊いてみた。
「レンカはこの家を出たんだ。レンカについて知っていることを教えよう」
それを聞いた途端、どんな返事をしたらいいか分からなくなって、頭の中が真っ白になって。そうしてわたしは知らなかったことを教えてもらった。必死で一言一句漏らさないよう聞いて覚えた。
レンカの家が、祖母の代から魔術を学んでいる家系であること。
魔術がどこまでできるか仕組みなんてわからないけど、レンカにはたった一人で野ネズミだけでなくオオカミのような猛獣を退治してみせた実績があること。
――それなら、なんでわたしに教えてくれなかったの?
裁縫することしか能のないわたしだから?
でも、レンカはわたしの編んだコースターもハンカチも使ってくれる。
いつの間にか、真っ先に完成品を見せるのはわたしの両親ではなくレンカになっていた。
別れの言葉くらい、たった一言でも何でもいいから欲しかった。
「またね、くらい言ってくれてもいいじゃん……」
いまさら文句を言っても届かない。
レンカの両親曰く、レンカが里帰りするかも不明みたい。
……そういえば、レンカは度々人間として生まれたことを愚痴っていたっけ。
わたしは変わった愚痴もあるもんだなーふーんって聞き流してしまったけれど、それは紛れもなく彼女がずっと長い間抱えていた悩みだったのだろう。
そもそもそうだとしたなら二度と帰ってこない可能性のほうが高い、か。
レンカの両親が言うには寿命を伸ばす魔術もあるらしいけど、それは高度で代償も必要なのだという。
レンカはきっと寿命を延ばす魔術の研究をするため、このちっぽけな村を出ていったのかな?
それとも、人間じゃなくなる方法もあったりするのかな?
確かにこの村には昼間でも暗い森が隣り合っているだけの場所。木の実を採り、小さな畑を耕して麦や野菜を育てているだけ。たまに来る商人もいるけれど、それだけ。
そ の商人にわたしの作ったコースターやハンカチを買い取ってもらうこともあるけれど、評判はそこそこらしくそれほど高くは売れない。
わたしもハンカチとかコースターとかを編むのをやめて、魔術を学べばレンカに会いに行けるの?
……ダメだ。ずっと考えてはいても、一向に結論がまとまりそうにない。
確実に言えることは、レンカは里帰りなんかしないということ。
「マノンちゃん? 私達には術師ならではの守秘義務というものがあってこれ以上は詳しいこと言えないんだけど……レンカはきっとあなたのことを気にしているはず。厳しいけれど、どうか諦めないで」
うぅ……。レンカの母の言葉はどこまでも温かい。わたしのことを気遣ってくれている。
結局、レンカの暮らしていた家でお茶をとお菓子をごちそうになってしまった。
その日の夜。
わたしは何となく夜の散歩がしたくなって、ちょっと家の外に出た。夜に出没する野獣のことを考えたら少し怖いけど、勇気を出して。
前だったらレンカが倒してくれたのに、と。あれも魔術ってものでやってくれたのかな?
少しの時間ならいいだろうと安楽な思考で。
もちろん、父さん母さんの許可ももらえた。真夜中さえ過ぎなければいいとのこと。
体を冷やして風邪を引いたらもったいないので、いつもより少し厚着をして。
少しだけ森のほうに視線をやって見上げてみればフクロウが鳴いている。フクロウはちょっとだけ好き。だってわたしを襲わないから。何となくだけど見守ってくれている気がする。
森はとても静か。でもそれくらいが好きかもしれない。
「そこの嬢ちゃん、夜の森に向かって一人歩きは危ないぜ? 今夜もいつでも、な」
「――へ?」
「うん、いい顔してるぜ。もしや驚かせちまったか?」
隣町でも村でも見かけないような雰囲気をまとった男の人が、わたしに声をかけてきた。
身長はわたしの父より若干上っていったところか。
年齢は……分からない。成人はしているんだろうけど、ちょっとなんだか年増感もあるような。
着ている服もなんだか上等なものっぽい。
もしかして、人さらい? それとも領主様の使い? わたしを農奴にしようとしているの?
「あのっ、ごめんなさい! わたしは大して取り柄のない女の子でして……」
「お、なんだ? 俺のこと勘違いしているみてーだな。別に嬢ちゃんをさらったりしねーよ。そんなことしたらうちのおっそろしいお嬢様に何されるか分かったもんじゃない」
男の人は何やら話に応じてくれているようだ。だけど聞き逃せない部分があった。
「お嬢様? 領主様のお姫様の使いなの?」
もうそうだとしたらもっとまずい。こんなに小さな村にわざわざ来たのだって、わたしみたいな女の子を無理矢理さらって朝から晩まで働かせる召使いに仕立て上げるために遣わされた使者かもしれない。農奴にされてもわたしも村長も抵抗できないのだ。
「俺はとあるでかいお邸のおっそろしいお嬢様の使いでな。これでも狩人も兼ねてるんだぜ。狩人としての役目はほぼ終わったしあとはお嬢様へ報告するだけだ」
「そ、そうなんだ……。大きなお邸かぁ、どれだけ怖ろしいのかな」
「そりゃあもう語り出したら、あーいや、陰口はお嬢様に全部聞かれているようなもんだった。やめやめ。兎に角本邸の他に別邸まで持ってるようなすげーお嬢様だぜ」
陰口を全部聞かれているような状況って、何それ? どういうこと?
恐ろしいお嬢様と繰り返すその男に、わたしは自分の危険さをかえりみずに関心を持った。
「ねぇ、もう少しお話しできる? この村にはあまり楽しめるものがなくて困っているの」
「おぅ、いいぜ。任務さえ全うすればお嬢様は何も言わないでくれてるからな。同じ狩人には嬢ちゃんのこと、伝えとくぜ。察知するに野獣もいないみてーだしよ」
男はこの暗い夜にまるで似合わない、明朗な声で応じてくれた。
それが、夜になって家を少し抜け出して散歩すればほぼいる彼との話がわたしの楽しみになっていった。
村の人でもなさそうだし、名前も知らない男の人との交流はこれが初めてだっけ。
これが”彼”との出会いだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!




