5-2 おはようからのお茶会
2章第2話です!5万字行くか行かないか程度で終わるかと!
「おはようございます、ご主人様!」
「目覚めたのね、レンカ。ここはおはようと言うべきね」
レンカより先にリーザベルが目覚めていた。そもそもリーザベル自身は睡眠をあまり好まないらしく、術で自分の睡眠時間を完全に調節していたとのこと。
睡眠は休息なのだから調整するものではなく、自然に目覚めるべき……というのはいかにも人間らしい考え方だろう。
魔術で調整できるなら、寝坊などという不測の事態にならないという利点はあまりにも大きい。不必要な睡眠が|この悪魔しか住んでいない世界での娯楽の一端になり得ている理由が分かった気がした。
「それでは私、着替えて何かしらの食事を頂くわ。一緒にレンカも食べましょう?」
「ぜひとも! ご一緒させてください」
寝間着から普段着に素早くシトニの手伝いなしで着替えた主人。
「ご主人様はご令嬢なのですから、いつもシトニとかメイドに手伝わせているんじゃないですか?」
「それは時と場合によるわね。着替えに時間のかかるドレスなんかはそうしているわね」
パーティー。自分が主役の眷属お披露目パーティーの騒々しさが、たった昨日の出来事だったなんて。
あの煌びやかさ、適度な騒々しさはそうそう味わえるものではなかった。
当主代理に用件のある一部の貴族や市民を除いて、ほとんどの客人は一泊して既に帰郷しているとのこと。
ルーノディアナは例の睡眠時間調節の術を用いて、まだまだ就寝しているというのだ。
その上瞬間移動の術が自在に使えるのだから、これといった不便はないそうで。
「そういえば、アルヴィベリト様はどうしたのです?」
「彼も帰ったわよ。貴女より先に私が起きて挨拶しておいたわ」
「そうでしたかー」
「彼は貴女が私の眷属になれてとても喜んでいた。後でレンカ宛てに手紙を送るって張り切ってたわ」
「手紙ですかー。あ、私も急いで着替えますね!」
こう話している間にもメイドによって食事の準備は整いつつある。レンカは話しながらも用意された服装へと装っていったのだった。
「おはようございます、お嬢様、レンカさん。お食事の準備は万全です!」
「おはよう、シトニ」
「おはようです、シトニ」
食堂に着くと既にシトニが給仕の待機をしており、食事の用意は整っていた。テーブルに並べられたものを見るに、どちらかと言えばお茶会の様相を呈していた。何はともあれどれもこれも美味であることは間違いない。
リーザベルに次いでレンカも席に着く。
純白のテーブルクロスにはイチゴ、ブドウ、キイチゴなどを使用したフルーツのタルト、淹れたての温かい紅茶、それとは別に冷やされたアイスティー、ヨーグルトとリンゴの混ざり合ったものまで用意してある。
「いただきますー。あ、このお菓子美味しいです!」
「レンカさんのお口に合ったようで何よりです!」
タルトの生地のサクサク感と生クリームの甘さ、それぞれの果物の甘酸っぱさの絶妙な違いをレンカは味わっていた。
菓子作りまでシトニの得意分野とは、流石は名家の令嬢に仕えるメイドだ。無論、温かい紅茶もカップに注がれている。
「また腕を上げたわね。紅茶ともよく合っているわ」
「はい、紅茶はブレンドしてありますから! フルーツが複数だと相性があります。相乗効果を生み出すブレンドが必要でしたのでそれを行ったまでです」
この説明はどちらかというとレンカに向けてのもののように聞こえた。
「ところで、貴女と交流のあった少女は?」
「――え」
その問いかけはあまりにも唐突で、主人からのそれだと分かりつつもレンカは生返事になってしまった。
「……そうですね、ご主人様に隠しごとは無粋ですね。マノン、私とは友人で……マノンはただの村娘です」
「そう。レンカのいた村人の7割は魔女か術師だもの。私調べで。マノンは残りの3割ってことね」
「それ、村としては多くないですか? ご主人様、何かされたのですか?」
「私は大悪魔としての権限で余計な領主や貴族の排斥を狩人に命じていただけに過ぎないし、自然と固まっていたとしか思えないわ。ただ、普通に暮らしている村人もいるというだけよ」
……お忍びで人界に出向くことはあったが、それでも手入れはしていないとのこと。
人界は、総てに於いて冥界に従属しているのだ。冥界の住人に魂を捧げるためだけにその生命を維持されている人間達。つまr、リーザベルに反意を向けない限り狩人が出動して魂を狩られるということはない。その点において、マノンは庇護されている立場にあるはずだ。
ならばなぜ、この場でマノン及び彼女の住んでいる村(レンカもかつて住んでいた)の話になるというのか。
「どうしてですか……?」
「それは、貴女には未練があると見たからよ。両親の安全より、友の心配をする貴女は変わっているな、と」
深い色をしているというのにどこまでも見透かされる、紅玉の双眸。それではまるで隙間の概念がない布地のようで。
ふと、シトニの元に別のメイドが訪ねてきた。すぐにシトニは手紙ともつかない封書を受け取り丁寧に開封すると、リーザベルに恭しく差し出す。
「お嬢様、こちらを。緊急の要件です!」
「あら、思ったより早いわね」
感情の籠もった急いたシトニの報告とは対照的に冷静なままのリーザベルはそれを開き、上から下まで黙読していく。素早い速度だった。速読であった。
「レンカ、朗報よ。私の使い魔がマノンなる少女と接触したわ。間違いない」
「マノンと!?」
「そう名乗っていたわ。あの村にその名前でレンカと同年代の少女なんて一人しかいない。把握済みよ」
「とても優秀な使い魔なんだ……じゃなくてですね! どうしてその使い魔とマノンに接触があったんですか?」
「あの村は滅ぶ直前にある。内部分裂ではなく、外部からの接触によってね」
「あの、それのどこが朗報なんです――まさか、マノンを探していてくれたんですか?」
「レンカの知り合いで、話が通じそうな者を探らせていただけよ。そしてマノンはあの村どころか人界ににいられなくなるでしょうね。だから――」
「まさか、ご主人様の特異魔術で同族に……」
「話が早いわね。誰の眷属にするかは未定だけれど、マノンに同族化の魔術を使う予定でいるわ」
マノンに、人間を止めてこの冥界で生き続けてと告げるしかないのか――
……いや、思ったより悪くない。太陽がないことさえ除けばほぼほぼ快適でしかない。
リーザベルならマノンの永住権を取得させることすら容易だ。
「持ちかけるのは私がします。それでもいいですか?」
「えぇ。説明と実行は私の役割ということね」
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