22「裏切りと覚醒」
――僕は地下牢から脱出するため、抱きかかえたエルヴィットさんと共に梯子のある出口へと向かっていた。
そうしていれば、軈て梯子の目の前に辿り着いた。
「トウマ様」
「――っ!?」
しかし一つの衝撃が、障壁として僕の前に立ちはだかった。
それは屋敷にいたはずのメイド長――カレンだった。
彼女は静かに、目をすっと細めながら僕の名を呼んだ。
「カレンさん、どうしてここに……」
「それは私の台詞です。トウマ様、何故貴方がここにいるのですか?」
カレンは全ての感情が消えたかのように、無表情でそう問いかけてくる。
異様な違和に体が拒絶反応を起こし、僕は脳内で思案を繰り返していた。
――なんだろう、この不気味な感じ。
全身が粟立ち、砉然と骨肉が引き剥がされていく気味の悪さがする。
すると、僕が押し黙っていたことに対してか、カレンが嘆息した。
「――答えないのなら、容赦はしませんよ?」
カレンはそう零すと、忽焉として微笑んだ。
その微笑みの裏に、凄絶とした殺気が潜んでいることを、僕は本能的に悟った。
「僕がここにいるのは、この少女を助けるためです。そして、あの屋敷から脱出することも考えていました」
「そうでしたか」
「そこを、どいてはくれないんですね」
僕の発言に、カレンはより朗らかに目を細めた。
「勿論です。『裏切者』の貴方に、協力するわけにはいきませんので」
「裏切者……」
その三文字に、僕は舌打ちをした。
意識的にやったのではない。無意識だ。
「何だか嫌な気分だね」
僕はそう言うと、龍神剣を出現させてエルヴィットを壁に寄りかからせるように寝かせた。
そして笑顔を湛えたままのカレンを、好奇で睨め付ける。
「その判断は正しいですね……私もここで貴方を処分しておくつもりでしたし」
カレンがそう零すとともに、戦場の火蓋は斬られた。
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「妖魔は、貴様だけじゃないんだよ」
怪物然とした姿の男――エルマーがそう言いながら、骨を槍のような形にして、ウテナの方へと飛ばした。
「『魔剪』!!」
漆黒の斬撃が現れ、槍を薙ぎ払おうとした。
しかし、反対に斬撃が薙ぎ払われてしまい――槍は勢いを弱めることなくウテナの方へと向かっていった。
ウテナは地面から手を出現させ、自分を別の咆哮へと投げ飛ばさせることでそれを回避。
槍は屋敷の床に突き刺さり、微動だにしなくなった。
「ほう、あれを避けたのか。お見事」
遖と取りも直さず拍手をし、エルマーは遠くで身構えているウテナを見やった。
当のウテナはと言うと、意識と感覚を全て集中に総動員させ、次の一手を思案していた。
「『魔手』で、攻めるべき」
脳内会議でそう可決され、ウテナは妖術を発動させた。
すると、地面から夥しい数の白い腕が生え、エルマーを襲った。
エルマーはウテナを嘲るかのように一笑すると、自身の骨を刀に変化させ、腕を切り裂いていった。
しかし、腕の数はあまりにも多く、更には切っても切っても尚増殖していくばかりである。
ただ単に腕を切断していくのは無駄だと悟ったのか、エルマーは大きく後方に跳躍し、迫りくる無数の腕達を見つめながら何かを考える素振りを取った。
「無限と湧き出る魔の腕、か。ならばこれが妥当か」
エルマーはそう呟くと、自身の口から飛び出している骨を抜き取り、それを漆黒の球体に変化させた。
つまり、『魔殲球』となったのだ。
それは腕の方へと投げ飛ばされ、そして直撃する。
その途端、爆発音と衝撃が周囲に飛び散り、煙幕としてウテナの視界を遮った。
「――っ!!」
ウテナはそれに危機を感じるも、煙幕の中から無数に飛び出した骨槍への対処はできなかった。
右腕の上膊、左胸、右の太腿を槍によって貫かれ、そこから妖魔の鮮血が瀉出する。
「ああああああっ!!!!!!」
ウテナは悲鳴を上げ、大きく吹き飛ばされた。
痛みに喘ぎ、ボロボロの体が血を噴出しながら悲鳴を上げている。
しかし、それでもウテナは諦めてはいなかった。絶望などしていなかった。
フラフラと立ち上がると、大きく息を吐き――魔力を瘴気のように周囲に漂わせた。
軈てそれが漆黒に染まり、妖術へと変化した。
「妖魔変化『怪鬼幽装』
次の瞬間、ウテナはまるで別人のようになっていた。
白目の部分が真っ黒く染まり、髪が赤に変化し、全身の傷が治癒し、右頬に紋様が浮かび上がり、左手に金棒を携えている。
「その姿は、まさか……!?」
目と口を大きく見開き、酷く動揺した様子のエルマーが、声を震わせながらそう言った。
「妖帝ウテナ、ここに在り!!!」
妖魔の帝が纏う羽衣を身に着けたウテナは、そう啖呵を切った。
どうも、焼き鮭です。
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