17「ズタボロ」
――私は目の前に悠然と佇むミアをじっと睨み付けた。
不気味なほどに美しい金の髪と、紋章が浮かんだ深紅の瞳。
それは、彼女が吸血鬼であることを示唆し――、
「ミア。貴様は何故ここにいる」
「んーとね、それは私がラスキア様の手下だからかな」
「堕ちたか」
私は目を瞑って溜め息を吐いた。
そして、かっと視界を広げると、魔法陣を展開して漆黒の球体を放った。
ミアはそれに対し、両目に浮かべた紋章をギラつかせてはニヤリと笑った。
「『魔殲球』……ね。悪くはないわね」
そう言いながら、ミアは目をかっと見開いた。
すると、彼女に迫っていたはずの漆黒の球体が消滅し――跡には何も残らなかった。
その光景を目にした私は思わず笑みを浮かべ、期待と好奇に目をスッと細めた。
「ミア、やはり貴様は面白い」
「私はあんまりかな」
言葉を交わし、私は跳躍した。
再度漆黒の球体を放つも、やはり、ミアに近付いた瞬間に消滅してしまう。
しかし、私は知っている。彼女の能力を。
「――厄介だな、『消滅の神眼』というものは」
「どこでそれを」
突然と表情を恐ろしくしたミアは、低い声で咎めるように言うと、私をじっと睨み付けてきた。
その瞳からは夥しいほどの殺意が溢れ、今にも私を殺さんとばかりに煌々と輝いている。
「帝国中の情報など、既に掌握してある……まぁ、私は大将軍だからな」
「――っ、やっぱ私リキア大将軍のこと嫌い」
「そうか、お前もか」
嫌悪を示すミアと、それを笑い飛ばすリキア。
両者は不敵な笑みを浮かべては、強く睨み合っていた。
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「――トウマ君、大丈夫?」
転げた僕に手を伸ばすのは、一人の女性。
女性は穏やかで柔らかな微笑を湛えたまま、こちらに手を差し出してくる。
その手を取り、苦笑いしては僕は彼女に謝った。
僕は女性の顔を見上げては、安心感がして前を走った。
「こら、またこけるよ!」
「大丈夫だって」
そう言いながら、僕は女性――エヴァの前を駆けていった。
『一つ、質問をしてもいいかな』
声がしたかと思えば、見覚えのない緋色の髪をした少女が目の前にいた。
「君は……?」
『勇者と言ったら分かるかな』
「勇者……!! あの伝説の!?」
まだ幼かった僕にとって、勇者は憧れの存在だった。
だからこそ、とても気分が高揚した。
『さて、質問だけど。
――君は、いつまでナハドメレクに支配されているの?』
心の奥深くに、その言葉が突き刺さった。
絶望と恐怖が入り混じり、軈ては困惑と恐慌へと変わっていく。
『龍神剣ナハドメレク……君が創造する、唯一の神剣だよ』
少女の声が鼓膜を穿たって心臓の鼓動を貫いてくる。
その場に僕は倒れ、目を閉じた。
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「――っっっ!!!!!????」
僕ははっとし、周囲を見渡した。
そこは見知らぬ屋敷であって、増しては見知らぬ少女が二人、メイドの格好をして料理をやっている。
「トウマ君、どうしたの? もしかして、お腹減った?」
「――多分」
銀髪の少女がそう言ったのと同時に、彼女の正体、自分が今どこにいるのか――更に、これからしなければいけないことを思い出した。
「僕は、早く……ウテナのところに戻らないと」
ウテナ。待っていてくれ。
「もう少しで」
屋敷の情報は全て掴んだ。
だから早急にこの屋敷から脱出してみせる。
『お兄ちゃん、本当にできるの?』
「オリビアか……」
『その通り。でも――本当に、「裏切者」のお兄ちゃんに何ができるの?』
「裏切、者……?」
その瞬間、僕の頭がズキリと痛んだ。
次に、脳裡にある火事の光景が浮かんだ。
荒れ狂う龍のように暴れ回り、広がっていく火炎と、人々の悲鳴と血肉の嵐。
そして町の中心で一つの剣を持ったまま項垂れている一人の少年。
傍らに打ち捨てられている少女の骸。
最後には――憧れだった一人の女勇者が、少年を静かに見下ろしていた。
『一つ、質問をしていいか?』
「――」
『どうして、君はここまで変わってしまったのか』
「――ウマ君! トウマ君!!」
「ナツ、ナ……」
「良かった。さっきからずっとぼーってしてるけど、ホントに大丈夫?」
「心配しなくていいよ、大丈夫だから」
ナツナの声で目が覚め、そして彼女はふっと目を細めて――
「味見してくれる? ほら、口開けて」
僕は口を開け、ナツナの作った料理を味わう。
「どうかな?」
「美味しい」
「なら良かった!!」
嬉々とした表情で、そう言ったナツナをじっと見据えたまま、僕は偽りの笑みを浮かべた。
どうも、お久しぶりです。焼き鮭です。
もし
「面白い!」「トウマが裏切者?」「自分もナツナの手料理を食べたい」
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