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16「終局」

 ――リリエルは倒れたまま、滔々と血を流し続けている。

 一方、ウテナはというと、ボロボロになった体のまま身動きの一切も見せなかった。

 そして、向こうにいた藍の髪の少女――レイラが急いでウテナに駆け寄り、

 

 「ごめん、ウテナ……」

 

 レイラはウテナの体に纏わりつく触手を切り離し、彼女の軽い体を抱える。

 

 「アタシのせいで、ウテナまで……」

 

 レイラはウテナを抱きしめては、顔を悲しみに染めた。

 ふと、ウテナの頬に雫が垂れた。それは、レイラの涙であり――同時に、ウテナが涙しているようにも捉えることができた。

 

 「――なんで、あたしが、こんな目に……」

 

 不意に、頭を撃ち抜かれたはずのリリエルがそう呻き、土を握り締めてはもぞもぞとうごめく。

 それに気が付いたレイラは、顰蹙し――、

 

 「アンタはよくも……よくも、妹と恋人を!!!!」

 

 氷の刃を大量に浮遊させ、倒れているリリエルに容赦なく解き放った。

 それはリリエルの体をぐちゃぐちゃに突き刺しては貫き、同時に彼女の悲鳴と血飛沫を放散した。

 

 「な、んで……」

 

 リリエルはそう言ったきり、黙り込んでしまった。

 その現象が、死によるものだと理解したレイラはウテナの方へと視線をやると、力なく笑った。

 

 「仇は取ったよ、ウテナ……ユダ」

 

 レイラが二人の名前を口にした途端、リリエルは顔を隠すようにして――、 

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」

 

 怒りと悲しみと苦しみの混ざった声で、泣き叫んだ。

 

 $ $ $ $ $ $ $ $ $ $

 

 「――ウテナ、こっち来いよ!!」

 「うん、今行く!!」

 

 これはいつの景色だろうか。

 ただ暖かい春の光と風に遊ばれ、私はどことなく心地よさを感じていた。

 見れば、向こう側には一人の少年がいるではないか。

 

 「ウテナ、どうしたんだそれ……」

 「――?」

 「なんか付いてるぞ」

 「ええっ!? どこ、どこなの?」

 

 私は少年の言葉に、思わず慌てふためき、急いで身に着けていた服と頭に触れる。

 すると、それを見た少年がおかしかったのか笑い出し、

 

 「ははっ、ここだよ。ほら、虫」

 「ひゃあああっ、早く取って!!」

 

 私は悲鳴を上げ、少年の方へと駆け寄る。

 すると少年は「ほら」と言って、私の腕に付いていた芋虫を指先で抓み取った。

 

 「どうら、これが付いてたんだぜ」

 「い、いちいち見せないでいいから……」

 「ごめんってば。ていうか、早くあっち行こうぜ」

 「う、うん……!!」

 

 少年の指さす方へ、私は彼と共に駆けていく。

 

 とても二人の表情が、笑顔という形状に塗りたくられていたことを、より鮮明に覚えている。

 

 そして月日は流れ、ある時、少年がいつもの待ち合わせ場所に来なくなってしまった。

 元々私は友達が少なく、姉としか遊んだことがなかった。しかし、突然といつもの待ち合わせ場所である公園に少年が現れ、時間が経つに連れいつの間にか仲良くなっていた。

 だが、そうだというのに今日はその少年が珍しく公園へとやってこない。

 

 それは、次の日も、その次の日も同じだった。

 私は途方に暮れ、家の中でベッドに蹲っていた。

 

 「どうして『――君』、来ないのかな」

 

 不思議だった。

 いつも笑みを浮かべ、無邪気でやんちゃだった彼に一体何があったのだろうか。もしや、あの笑みの裏側には何かが潜んでいたのかもしれない。

 

 そう思った私は急いで部屋を、家を飛び出し、町中を走り回った。

 暫く走り、息を切らした最中――突然、見覚えのある少年と出会った。

 

 「『――君』……?」

 「ウテナ……!?」

 

 見覚えのある少年は顔を驚愕に染め上げ、そしてこちらに駆け寄って来る。

 

 「『――君』会いたかったよ!!」

 「ボクも君に会いたかったよ……」

 

 両者は抱き合い、そして涙した。

 奇跡とでも呼ぶべき最高の再会であったが、遠くの方で鬼のような顔をした数名の男達が現れ、更に少年の名を呼んで探し回っていた。

 

 「見つけました!!!」

 

 残念なことに、少年は男達に引っ張られていき、私はそれを立ち尽くして眺めるだけしかできなかった。

 今となってはそのことを後悔している。

 

 「――ナ、ウテナっ!!!」

 

 私の方へと手を伸ばし、必死にそう叫ぶ少年。

 私はそれに声涙しか返せず、その場に崩れ落ちてしまった。

 

 $ $ $ $ $ $ $ $ $ $

 

 「――れい、ら……?」

 「ウテナ!!」


 私は霞む視界を広げていき、そして大切な姉の名を呼んだ。

 すると、徐々に目が光に慣れていき――軈て鮮明になった視界に、泣き腫らした目でこちらを見つめるレイラの姿が映った。

 

 「生きてて、良かった……死んじゃったかと思ってた」

 「私は大丈夫だよ。それに、一応、再生能力も持ってるし」

 

 私はレイラの目元で溢れる涙を、そっと指で拭うと、微笑んだ。

 

 「お姉ちゃん、ありがと」

 「――!?」

 

 レイラは目を大きく見開くと、突然、噴き出した。

 

 「ウテナ、その呼び方懐かしいね」

 「うん……まだ幼かったときに、レイラのことこう呼んでたの思い出した。実際は同じ時期に生まれた双子なんだけれどね」

 「でも一番最初に生まれたのはアタシだからね」

 「知ってる」

 

 ウテナはそう言うと、軋む体を起こして辺りを見渡した。

 一人の赤髪の女が倒れていて、その周囲には鮮血が飛び散っている。

 見るに、どうやら私はあの倒れている女によって意識を失っていたのだろう。

 そこにレイラが現れて救出してくれたと。

 

 私はレイラの方を見直し、そしてふっと再び微笑んだ。

 

 「レイラ、大好き」

 「アタシの大切な大切な妹。愛してるよ」

 

 二人はそう言い合うと、目を細めた。

どうも、焼き鮭です。まさかのアイツが回想シーンで出てきましたね。また一つの謎が解けました。

もし

「面白い!」「この姉妹尊すぎる」「自分もレイラに抱きかかえられたい」

と思った方はブックマーク、↓の☆を押して評価をしていただけると励みになります!

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