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15「色々」

 満面の笑みを浮かべるナツナを前に、僕は視界を、嬉々ではなく猜疑の感情で狭めた。

 前々から気になっていたのだが、何故ナツナは僕に好意を持っているのだろうか。

 

 夜を共にし、同行に雀躍するほど、ナツナは僕に好意を持っているということだ。

 どういうことだろうか。

 

 「ねぇ、ナツナ」

 「ん、どうしたの……?」

 

 物干し竿に()()()服を掛けていたナツナが、手を止めてこちらを向いた。

 その顔はとても美麗だったが、僕は今、とてもそう思えはしなかった。

 

 「単刀直入に聞くけど、ナツナって僕のこと好きなの?」

 「ええっ!? そ、そうに決まってるじゃない!!」

 「好きなんだ……いつから?」

 「一目惚れ」

 

 僕は苦笑いをした。

 ナツナらしい回答と言うべきだろう。単純な理由にすぎなかった。

 

 「だって、流石に好きじゃないと……夜なんて無理よ」

 「まあ、流石にね」

 「ていうか、トウマ君ほどアタシのこと好きじゃないの? 昨夜は一緒にいてくれたし……」

 「そうだね。きっと僕もナツナのことが好きなのかも」

 

 そう言った途端、僕の心がズキリと痛んだ。

 

 違う違う違う違う違う。違うだろ。

 僕が好きなのはウテナだ。ウテナしかいない。

 眼前の女なんてただの贋作にすぎない。髪の色も、性格も、仕草も、口調も、背丈も、格好も、役柄も、全て違う。

 僕からしたらどうでもいい、ただの邪魔者にすぎないだろ? なあ。

 

 「黙れ……!!」

 

 僕は頭を押さえ、溢れ出てくる邪念を抱え込む。

 すると、脳裡に黒髪の青年が現れた。それはまるで……夢の中に出てきた、幼い少年のようで。

 

 『トウマ、本当にお前は阿呆だな』

 

 こちらを嘲笑してくる、一人の青年。

 

 『――ボクとお前は一緒なんだよ。互いに、心を殺した者同士ね』

 

 白い髪の少年の声が、脳内で反響する。

 どこまでもしつこく、しかしどこか滑らかに、心の中へと闖入ちんにゅうしては軽蔑するような。

 

 『お兄ちゃん』『勇者に憧れてるんだ』『トウマ、起きたのか』『トウマ君、一緒に寝よ?』『トウマ君、シよ?』『お前は俺を忘れるなんて……』

 

 そして、僕を蹂躙するかのごとく、記憶の奔流が言葉として心中に羅列する。

 

 「トウマ君、大丈夫……?」

 

 はっとした。

 気付けば、ナツナがこちらに顔を近付けてきている。

 僕は「ごめん」と返し、苦笑いする。

 

 「大丈夫だから……ちょっとぼーってしてた」

 「へぇ~、やばい、トウマ君可愛い」

 

 ナツナが頬を赤くして、そして唇を重ねてきた。

 そして舌を絡ませてきて――、

 

 「いちゃつくのも大概にしておきまし」

 「げっ」

 

 すると、溜め息を吐くカレンがナツナに向かってそう言った。

 それを聞いたナツナが冷や汗を額に浮かべ、後頭部に手を置いて苦笑いをする。

 

 「いやあ、ちょっと気が動転して」

 「まったく……貴方は本当に身勝手ですね」

 「身勝手言うなし……これはその、単なる遊戯よ!!」

 「遊びでこのようなことをするなんて、気がしれます……あくまでもトウマ様は見学しに来ているのですよ。貴方が仕事をしなければ、トウマ様が見学しに来た意味がありません」

 「そうだったわね。ご、ごめんね、トウマ君」

 「気にしないでいいよ」

 

 ナツナは僕を見ては申し訳なさそうにそう言うと、物干し竿に洗濯物を急いで掛けにいった。

 その光景を見ていた僕に、ふとカレンが、

 

 「トウマ様、すみません……迷惑をかけてしまって」

 「だ、大丈夫ですから。逆に、僕もいきなり見学するだなんて言ってすみません」

 「見学くらい構いませんよ」

 

 カレンはそう言うと、不意に微笑んだ。

 

 「カレンさんって、笑顔が素敵ですね」

 「――っ、そ、そうですか?」

 

 僕の何気ない一言に、カレンが口元に手を置いて頬を赤くした。

 思わぬ展開に僕は自分まで恥ずかしくなってきて――、

 

 「嘘じゃない、ですよ」

 「ありがとうございます……そう言われるのは初めてだったので」

 「初めて?」

 

 カレンの一言に、僕は問いかけた。

 すると、彼女は「はい」と言いながら、嬉しそうに目を細めた。

 

 「私、今まで怖いとか、嫌いとしか言われたことなかったので……あまり褒められたことがないんです」

 「そうなんですか……でも、僕はカレンさんのこと怖いとか強いとか嫌いだとか思ってませんよ」

 「――っ、トウマ様……恥ずかしいです」

 

 カレンは顔を真っ赤にし、僕から目を逸らした。

 どうやら彼女は褒められ慣れていないようだ。

 

 しかし、カレンのことをそんな風に思う人がいるんだな。

 

 僕は今しがた赤面している、美少女へと目をやった。

 彼女は純粋無垢で、礼儀正しくて、清らかで、とても可愛らしい人だ。

 嫌われる理由が分からない。

 

 「なんか、色々あるんですね」

 

 僕はそう呟くと、口元に柔く笑みを浮かべた。

 すると、遠くでナツナが盛大に転んだ。

 

 「カレンさんは、とても優しくて可愛いですよ。だから――人の悪い意見を気にしないでいいですよ」

 

 そう言い、僕はナツナの方へと走っていった。

 

 「トウマ、様……」

どうも、焼き鮭です。誰かしら、何かを抱えて生きていますよね。

もし

「面白い!」「トウマ、絶対カレンさんのこと狙ってるだろ」「ナツナってドジなのか?」

と思った方はブックマーク、↓の☆を押して評価をしていただけると励みになります!

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