10「偽りの愛」
「エルヴィットさんは大丈夫だろうか……」
僕――トウマは、部屋を出ていったナツナを見送るとそう零した。
エルヴィットさんの安否確認が不安の種苗であり、脳内で虫のように這いずり回っては、僕を嘲笑するかのごとく心まで汚濁していく。
再び記憶喪失を受け、大事な人を忘れていく恐怖もする。
銀髪の少女ナツナ――彼女と夜を共にしては記憶が喪失していた。しかし、やっとのことで少しの記憶は取り戻すことができている。
ウテナのこととか、リキアとか、エルヴィットさんとか。
いや、三人しか思い出せていない。何でだろう。
「早くこの屋敷から脱出しないと」
僕が今、立ち尽くしている場所から早急に脱出してみんながいるアジトに戻らないと。
足を引っ張るわけにはいかない。
「エルヴィットさんもこの屋敷にいるみたいだし……それも地下牢に」
地下牢にエルヴィットさんが閉じ込められているなら、今すぐにでも助けに行きたいが、まだこの屋敷のことを詳しく知ってはいない。まずもって部屋から出たことすらない。
昨日はナツナに屋敷のことを少しだけだが、聞き出すことができた。
なんでも、お館様がいるという話だったが、どういうことだろうか。
「あっ、ごめん……! 忘れ物しちゃった」
すると、部屋の扉が開いた。扉の方には息を切らしたナツナがいた。
きっと、走ってこの部屋に戻って来たのだろう。
「忘れ物?」
「うん。忘れ物」
ナツナは苦笑いに近い笑みを湛え、部屋の中へ小走りで入って来る。
そして、僕の目の前に立つと今度は明確な微笑を浮かべた。
「おはようのキスしてなかったから」
「えっ」
「ちょっと、離れないでよ!」
僕は思わず身を仰け反らせてしまい、それを見たナツナが憤る。
「ごめん……ちょっと驚いただけだから」
「そうなんだ。ふふっ、可愛い」
ナツナが顔を寄せてくる。
「アタシ、トウマ君と出会って二日目だけど――惚れちゃったな」
ナツナは吐息混じりにそう言うと、目を瞑った。
彼女の唇が烈しく視線を吸収し、しかし、僕は彼女とは違って目を閉じなかった。
唇を重ね、二人は互いに違う想いをぶつけ合う。
この屋敷から脱出するためには、ナツナを利用するしかない。
僕は脱出するまでの間、彼女を愛しい人物と思い込み――自我を殺す。
「戻るために」
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「――やっぱり私は行く」
「どうして……!?」
ウテナは下を向いて、拳を作りながら言った。
心身共に向こう岸にいるレイラを後に、ウテナは宮殿の豪奢な扉を押し退けた。
「ウテナはどうしてそこまで……敵の拠点にはリキアが行ったんだよ! だから、ウテナが出ていく必要はないじゃん」
「レイラは何も分かってないよ……ここで何もしないまま、リキア一人に不安と希望を押し付けて、一向に帰ってこないトウマ君とエルヴィットを見捨てろって言うの?」
「見捨てろだなんて、そんなこと言ってない!!」
「聞こえるんだよ、そんな風に……」
ウテナはレイラを睨み付けるようにして、
「――レイラはユダが死んでから、救いなんて諦めてるんでしょ?」
「あ、ぁ……」
それだけ言うと、ウテナは前を向いて去っていく。後方で膝から崩れ落ちるレイラ。
「なんなの……本当に。アタシはウテナまで失っちゃったら……」
どうも、焼き鮭です。
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