5「取り零す」
――私は寝室に戻り、どこまでも静かな部屋に立ち尽くしていた。
重い溜息を一つ、ドアに寄りかかる。
「しかし、精霊騎士を利用するとはいえ、ラスキアをそもそもどのようにして誘き出すか」
戦うとは言ったが、どのようにして戦おうか。誘き出した方がよいだろうか。
ならば彼女の兵を数百名ほど捕え、死ぬまで残酷な拷問をしてやろうか。そして、死体を街中に晒し――そうすればラスキアとはいえのそのそと姿を現すであろう。
人の所業とは思えないほど惨たらしい行いをすれば、黙ってはいられないだろうからな。
ニヤリと笑い、私はドアから背を離す。
「近い内に仕掛けてやろうか」
精霊騎士を利用して、彼女の兵を捕縛しよう。
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「トウマ君……」
深淵のように底知れぬほど澄み、暗い銀の瞳を細め――鬱悒を夜の景色に溶かすウテナは、攫われた彼の名を嘆くように声にしては、唇をきゅっと結んだ。
瓜二つの顔をした藍の髪をした少女――レイラがウテナの横顔をじっと見つめては、すっと目を瞑った。
「アタシ、寝るね」
「うん……」
スタスタとベッドの方へ、去っていくレイラを後ろに、ウテナは穴が開くほどに窓の外を眺めていた。
ベッドの方から衣擦れの音がし、それはレイラが本当に寝転んだということを示唆し、ウテナは完全に沈黙してしまった。
そして子供のように小さく震えては、目の淵から水を垂らした。
涙だ。
「――どう、して」
沈黙を正としていたはずのウテナだったが、心の奥深くから溢れ出てきた激情には耐えられなかった。
しかし、心の中で暴れ回る感情を少しでも抑えるように、とてもか細い声音で言った。
「どうして、トウマ君が……やっぱり、また私は何もできなかった」
ウテナは無力感を静寂にぶつけ、シクシクと啜り泣く。
「どうして、どうしてなの……」
「どうしても何も」
ベッドの方から凛とした声音が聞こえたかと思えば、それはレイラのものであった。
ウテナは驚いて振り返り、今しがた己の吐露を聞かれていたことに下を向いた。
「アタシ達が弱いからなんだよ……結局はこの『白銀の豺虎』に入ったとしても、何もできやしない。アタシ達はどこまでいっても弱くて、無力で、何もできやしないんだよ」
「トウマ君と、エルヴィットが攫われたのは……私達が弱かったからなの?」
「そうわよ!!! アタシ達が弱かったから、みんな……死んでいくのよ」
レイラは叫び、溜め息を吐いた。
そして再びこの空間に静寂が訪れ、全員は目を瞑った。
どうも、焼き鮭です。
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