14「夢か幻覚か」
――緑の体色をした鬼を睥睨し、僕は龍神剣を構える。
眼前に立つ鬼――狡猾鬼は先ほど異常な速度で居合を決めてきた。
ならばそれを凌駕するほどの圧倒的に俊敏な一撃を命中させなければならない。
僕は深呼吸をしながら、他人のことなど忘れるほどに深い瞑想をする。
すると、真っ黒な視界に一縷の光が現れた。
その光に思わず意識が逸れ、僕は慌てて目を開いた。
「オオオオオ!!!」
金棒を持った鬼――簒奪鬼がいた。
僕は急いで攻撃を躱すが、再生しかけていた右腕を再度、狡猾鬼によって切断されてしまった。
「トウマ……伏せるのじゃ!!」
エルヴィットがトウマに叫び、血の楔を二体の鬼に飛ばした。
しかし、
「あなた達は統率が取れていない……係い、敗北するのは必然的と見た」
今まで黙していた教祖が口を開き、魔法陣を展開した。
それを見たザギンクが四肢から火花を散らし、教徒と戦うのをやめる。
「エルヴィット様、トウマさん、ウテナさんを連れて逃げてください!!」
「な、何でじゃ……!!!」
「あの魔法は『禁忌魔法』です!!」
『禁忌魔法』などと言葉にしたザギンクは顔色を変える。
それを聞いた僕はその言葉に、
「――っ!!」
突然と現れた頭の痛みに、僕は歯を食いしばる。
なんだこれ……。
『それを使っちゃだめ!!!』『お兄ちゃん……?』
あの声だ。
エヴァとオリビアの声だ。
どうして二人は必死にそう言っているのだろうか。いや、これは幻聴だ。
幻聴のはずだ。
「トウマ、立つのじゃ!!」
「エルヴィット、さん……」
エルヴィットが、ウテナを抱えたままこちらへと駆けてくるのが見えた。
視界は薄れていてはっきりとしないが、エルヴィットがとても慌てた表情をしていた。
「早く!!!!」
ザギンクの声が、耳鳴りを伴って意識に流れ込んでくる。
――その直後、途轍もない爆発音と爆風にこの場にいた全員が呑まれた。
$ $ $ $ $ $ $ $ $ $
「――トウマ君」
「あ……エヴァ」
机に突っ伏したまま眠っていた僕は顔を上げ、視界に映るエヴァを見つめる。
彼女は柔和な笑みを浮かべ、僕を見つめ返していた。
「トウマ君ったら、また寝てたの?」
「ごめん……最近こうやっていつのまにか気を失うことが多いから」
「病気?」
「分かんないけどね……」
僕はそう言いながら立ち上がると、ふと、自分の手を見た。
そして近くにあった置き鏡へと目をやる。
幼いはずの僕ではない、成長した一人の少年が映っていた。
これは誰だ……? そもそも僕は誰だ?
「トウマ君、どうしたの?」
エヴァが、立ち尽くした僕の方へと歩み寄ってくる。
「来るな!!!」
何故か彼女に途轍もない拒絶感がし、僕はそう叫んでいた。
「ご、ごめん……!」
無意識に拒絶していたことを彼女の驚愕した表情から読み取り、僕は慌てて謝る。
しかし、
「――そうだよね、やっぱりトウマ君はいつも一人で悩んで苦しんで」
エヴァは生気のない両目でこちらを見据えては近寄ってくる。
「泣いて蹲って悔やんで自分を責めて他人に八つ当たりをして、一人で突っ走っていくんだもの」
すると、彼女は僕の頬を舐め――
「そういうことばかりするから、大切な人を失うんだよ?」
不気味な笑みを湛えてはそう言った。
僕は現状が理解できずに、その場に尻餅を付いてしまった。
相変わらず、彼女は不気味な表情をしたままこちらを見下ろしていた。
「お兄ちゃん」
「っ……」
耳元で囁き声がした。
高くて細い、鈴のような音色だ。
僕は声の主が誰かを知っていた。
「オリビア……」
「しっ――今エヴァ姉が怒ってるから黙って」
唇に小さな指が当てられ、僕は思わず黙り込む。
すると、頭上に立っているエヴァが不吉な感情を瞳に宿らせ――
「オリビアちゃん。どうしてあなたは裏切者の味方を?」
「エヴァ姉、これは調教なんだよ? 首を挟まないで」
「――んなの、そんなの知りたくもない!!!」
僕はそう叫び、逃げるようにして家を出た。
その道中で後ろを振り返り、追いかけられていないか確認した。
しかし、二人は追いかけてきてはいなかった。
「はぁ……はぁ」
長い間走っていた。
そして見知らぬ森の中へと迷い込んでいた。
「ここは……?」
リキア達と一緒に山賊と戦った森だ。
そういえばそんな名前の人がいたような気がする。
でも、あまり思い出せない。そもそもなんで僕はこんなに成長しているのだろうか。
いや、この見た目が普通だったじゃないか。成長ってなんだよ。
「自分で自分のことを忘れるだなんて、終わってんだろ」
「――!」
一人の少年がいた。
少年は糾弾するかのような口調でそう言うと、呆れたかのように溜め息を吐いた。
「トウマ、お前は俺のことを忘れるなんて……どんな神経してるんだよ」
少年はこちらへと歩み寄って来ると、思いきり僕の頬を殴った。
何が何か分からず、僕は無理解のあまり驚愕と恐怖、困惑を心の中で充満させる。
大切な人物であったのは間違いないだろう。でも、思い出すことができない。
「殺さないと、だろ……?」
少年は頬を押さえる僕に、言い聞かせるようにして口にする。
そうだった。殺さないとだ。でも、誰をだ?
「思い出せない……誰を、殺せばいいのか」
「つまんねぇな」
少年は失意を示すようにそう零す。
そして顔を近付けてきて――
「――――――」
呪文のような言葉を、囁いた。
どうも、焼き鮭です。
もし
「面白い!!」「トウマの過去が本当に意味わからん」「自分もエヴァに頬を舐められたい」
と思った方はブックマーク、↓の☆を押して評価をしていただけると励みになります!




