6「なんなんだこの感情はよ!!」
――ああ、そうだ。ずっと昔からそうだった。
何度起き上がっても、結局は倒れる。
まるで雑草だ。雑草は芽を出し、青々と葉を伸ばしたとしても人によって刈り取られてしまう。
結局はそれと同じだ。
何をやったって上手くいきやしない。何を熟したって誰からも称賛されはしない。
そのせいで落ち込んだり、悲しんだりする自分がダサい。みっともない。とても惨めだ。
「――ったく、面倒くせぇな」
「ユダはそれしか言わないじゃん。何かウケる」
「うるっせぇな!」
オレの自嘲にいちいち口を挟んできたのは、眼帯をした女――ソリティアだった。
彼女とオレは共に『海賊』をしており、造船所で作ってもらった小さな木の船に乗って世界各地を旅していた。
「でもさ、ユダって意外と優しいよね?」
「ああん? それってどういうことだよ」
「ユダは口も悪いしいつもキレてるし、強がってるけど――本当は、凄く周りの人を思っているんだよね」
「意味わかんねぇこと言うなよ」
オレはソリティアの言葉に頭を掻き、櫂を漕ぐ。
すると、彼女は隻眼をふっと細め、
「私は、ユダのそういうとこ……良いと思うよ」
「だから意味が分かんねぇって……」
「あ、もしかして褒められて嬉しい? 照れてる?」
「う、嬉しくなんかねぇし!」
ちっ、ソリティアと喋ってると調子が崩される。
しかし……
「嬉しい、か……」
「ん、何か言った? もしかして黄昏てる?」
「んなわけあるかよ! ていうかソリティアも漕げよ!!」
「ごめんごめん。手伝うから」
「手で水を掻くな!」
「あははっ」
「笑いごとじゃねえっつうのに」
ソリティアが何を考えているのかは分からない。
しかし、これで明日までに町へと行けるのだろうか。
それからは新たな仲間達も増え、船も大きくなった。
青髪の少女――メイ、ハンマーを振り回す巨漢――クラックだ。
「ユダ……海賊団の名前何にする?」
「前まではそんままユダだったからな……何にするか決めてねぇ」
「おじさんは別にそのままでいいと思うけどね」
「えぇ、私はソリティア海賊団とかでもいいと思うけどね」
そんな会話をした。
暫く月日が経ち、オレ達は『エルヴェル帝国』とやらの近海へと辿り着いた。
そこを航海している観光船を襲い、オレらは金目の物や団員達の好きなことをさせていた。
だが、そこに現れたのがリキアという女だった。
リキアはオレらの海賊団を、『白銀の豺虎』とか言うチームの仲間と一緒に倒しやがった。
ソリティアも、メイも、クラックも、下っ端達もやられた。
「――強ぇな」
ああ、そうだ。リキアは尋常じゃないほどに強かった。
流石は『大将軍』と言うだけの実力なのだろう。
オレは彼女に一方的にやられていた。そして挙句に勧誘された。
彼女の勧誘に、オレは手を取った。
それは、リキアという女が、オレが戦ってきた相手の中で一番強かったからだ。
だからこそ、彼女のチームに入れば、きっとオレも強くなれるだろうと思った。
「クソぉ!!!! どうしてオレは勝てなかった!!!!」
リキアに引き続き、ヘルディア市街と言う場所で変な男にやられた。
それがとても悔しかった。
オレは自分の部屋の机を思いきり叩き壊し、息を荒げる。
「どうしてなんだよ……なんで負けちまったんだ」
今のところ、オレは戦闘で碌に活躍できていない。
どうすれば、リキアのように強くなれるのだろうか。
そんなことばかり考えていた。
しかし、そんなことなど吹き飛んでしまう出会いがあった。
「――ユダ、おはよう」
「あ、ああ、おはよう――」
それは、レイラという名の可憐な少女だった。
オレには、彼女の浮かべる笑顔が何よりも輝いて見えた。
「ユダ、今日の昼食はアタシが作ったんだよ? 味とかどうかな」
「――まずくはねぇよ」
「なら良かった!」
オレに唯一、明るく話しかけてくれるのがレイラだった(トウマはウテナとばっか話してるし、肝心のリキアはエルヴィットと話してる。しかもザギンクはソフィアとかいう女と機械について話しまくってる)
というか、唯一の話し相手とでも言うべきなのかもしれない。
「――うめぇよ」
そんな小さな呟きは、レイラには聞こえていなかった。
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「――いや、まじで寝れねぇ」
寝言は適当に言ってみたりしたものの、何だか落ち着かない。
レイラが近くのベッドで寝てるからか? いや、そんなことはない。
オレがそれくらいで取り乱すはずがないだろ。きっと床に転がってるせいで体が無意識に痛んでるためであろう。
そもそも「ソリティア、もう食えねぇよ」って何だよ。
何を食ってんだ? あいつは一回も料理を作ってくれたことなんてなかったぞ!(食料は魚を焼いて食ったり、魔獣の肉を食ってた)。
ふと、レイラが寝返りでもうったのかもぞもぞとしている。
「――ユダ、おやすみ」
そんなことを耳元で囁かれた。
目は閉じているが、耳はばっちりとレイラが起きているということに気付いている。
その瞬間、オレの胸中に謎の感情が沸き上がってきた。
「ああもう! 何なんだこれ!!!」
「うわっ!? びっくりした……」
「す、すまねぇ……」
「ユダが謝るの珍しいね……それにもびっくり」
「はあ!? オレが謝ろうが何だろうがどうでもいいだろうが!!」
「ユダ、深夜だよ!! しー」
「げっ、そういえばそうだったな……」
レイラのことを考えて、変な感情が沸き上がってくるとオレはそれを抑えるために無性に叫びたくなってくる。
しかし、その変な感情はとても暖かくて、心地の良くて、レイラに近付きたいとか一緒に居たいとか――
「あああああああ!!!!!」
「だからっ、静かに! 静かにして……!」
「わ、悪ぃ」
焦った様子のレイラにそう謝り、オレは苦笑いする。
そういえば、笑ったのは久しぶりかもしれない。
でも苦笑いだ。本気でおかしくて笑ったわけじゃない。
「お前達、また騒いでいるな」
「やべっ」
見回りでもしているのか、リキアが扉を開けて部屋に入ってきた。
それに気が付かなかったオレはそう言い、レイラの方を見た。
レイラは布団の中に潜って身を隠していた。
「まじかよ……」
「あのなあユダ。いい加減寝たらどうだ? 明日からはまた仕事だぞ、仕事」
「つってもよ、仕事もここに来た目的も何なんだよ? 協定ってなんだ?」
「詳しくはまた明日話す。今はただ眠ることを優先しろ」
「分ぁったよ」
溜め息を吐いて部屋を出ていったリキアを見届けると、オレも同じように溜め息を吐いた。
「眠れねぇもんは眠れねぇんだよ」
すると、布団がもぞもぞと動き出し――、
「ぶはあっ、危なかったー」
「てめぇここぞとばかりに……」
「なになに? 文句言うくらいなら、最初からアタシとベッドに寝転がっていたら良かったじゃん」
「で、でもっ、それは流石によぉ……」
「ぶっ、ユダ君は純情だね」
「て、てめぇ揶揄ってんじゃねえぞ!!」
「少しは学習しようよ……」
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「――シャラ、余は今精霊界に来ておるぞ」
静寂とした森の中で、エルヴィットがそう言う。
彼女の目の前には十字架の立った墓があり、十字架の下には沢山の花が添えられている。
「うぐっ……シャラ……!!」
エルヴィットは唇を必死に噛み、涙を流さまいと堪えている。
しかし、そう上手くは行かず――耐え切れずに涙の雫は頬を伝う。
「シャラ……ごめんな、余が弱いばかりに」
そう呟きながら、エルヴィットは墓に一輪の花を添えた。
すると、
「エルヴィットさんは、そこまでその人のことを想っているんだね」
「精霊神、メリア……?」
「メリアちゃんでいいよ」
「じゃ、じゃあメリアちゃんじゃ。メリアちゃんは何故ここへ?」
「ん、エルヴィットさんが森の奥に入って行くと思ったら、まさかの人間界の廃村に行ってたから――ちょっと気になったの。でもごめんね、辛いはずなのに押しかけて」
「気にしなくていいぞ。余はもう元気じゃ」
エルヴィットはそう言うと、涙を拭って笑ってみせた。
それを見て安心したのか、メリアも微笑んでいた。
「もしよかったらだけど、その人のこと――教えてくれないかな」
「人じゃなくて吸血鬼じゃ!」
「ごめん……! もしよかったらだけど、聞かせてほしいなって」
すると、エルヴィットは何かを懐かしむように儚げな表情をした。
どうも、焼き鮭です。前回と引き続き、ユダとレイラの1シーンを書きました。
もし
「面白い!!」「エルヴィットの過去が気になる」「自分もリキアに家まで来られたい」
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