プロローグ「精霊界に行くぞ」
――私は窓の外を眺め、一つ吐息を零す。
庭に生えた草花に見入り、心の中へ安静が湧き出てくる。
ふと、微風が吹いてきた。それは花々の芳香を運んできては、鼻腔へと入り込んでくる。
私は微笑し、制帽を被る。
「さて――」
窓からドアの方へと踵を返す。
すると、廊下の方からコツコツと誰かの足音がした。
私はそれに耳を澄ませ、急いで部屋のドアを開けた。
「あ、リキアおはよう……!」
「おはよう。それにしてもトウマが自分から私の部屋に来るなど、珍しいな」
「そうかな。前に僕はリキアの話を聞きにここへ来たと思うけどね」
「あれは私が呼んだのだろう?」
「そうだったね。ごめん」
苦笑いをするトウマは後頭部に手を回して言った。
髪の黒がその動作で揺れ、彼へより朗らかな印象を与える。
これだけで映える光景だが、更にお誂え向きなのが銀と青の布で彩られた制服による清潔感だ。
私はトウマを一瞥しては、
「トウマ、皆は起きているか?」
「起きてると思うよ……特にウテナ、レイラ、ユダの三人は早くから起きて稽古をしてたよ」
「ん、そうなのか……」
ウテナ、レイラ、ユダの三人が稽古をしているのか。
此間の戦いであまり活躍することができなかったことによる、自責の念と悔悟で朝から稽古をしているのだろう。
三人が勤勉で何よりだ。
「――この調子で世界征服を迎えるとな」
私はトウマと共に三人がいるであろう宮殿南側の庭へと向かう。
すると、向こうから仲良さげに話をしているザギンクとエルヴィットが来た。
「エルヴィット、ザギンク、起きたのか。準備はできたようだな」
「そうじゃな! ――って、ウテナ達はどこにいるのじゃ?」
「三人なら庭にいるそうだ」
「稽古をしてるってよ」
珊瑚色の髪を垂らし、赤い瞳に金色の紋章を浮かべている小柄な少女――エルヴィット。
機械の腕をかちかちと音を鳴らして動かしている、端正な顔立ちの青年――ザギンク。
まるで御伽噺や空想科学小説に出てきそうな二人は、各々が笑みを浮かべ、私とトウマにそう話をする。
赤い絨毯が敷かれた廊下の上を踏みしめ、私はニヤリと笑った。
「早速三人を呼び、精霊界へと出発するぞ」
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「あ、トウマ君……」
「ウテナ、レイラ、それにユダ……三人共稽古を頑張ってるね」
僕はベンチに座っている、汗を掻いた少女に水を渡す。
黒髪を風で爽やかに靡かせ、少女――ウテナはトウマを見て微笑んだ。
すると、大鎌を背に括り付けた男――ユダがレイラと共にこちらへと向かってきた。
「トウマ、アタシにも水頂戴っ!」
「オレにも頼むぜ」
「うん……」
僕は二人に水を渡す。
すると、ベンチからウテナが口を開いた。
「もうそろそろ出発の準備をしないとね……」
「そうだね。ていうか、リキア達は準備終わってるから急がないとまずいよ」
「えっ!? そうなの……!?」
「まじか、やべぇ」
三人は慌てた様子で芝生の上に置いていた荷物を纏める。
もっと早めに言えば良かったかも。
「トウマ君、急ごう……!!」
「おーい、其方達急ぐのじゃ!!!!」
遠くからエルヴィットが手を大きく振りながら呼んでいる。
見れば、リキアが緑色のトカゲが牽いている馬車らしきものに乗っている。
僕はウテナの手を引いて走っていく。
そして『白銀の豺虎』のメンバー全員が揃い、銘々が馬車の中へと入っていく。
馬車の中で待っていたリキアは全員の顔を見渡して確認すると、不意に微笑んだ。
「――皆よ、分かっていると思うがこれから私達は精霊界へと向かう。それぞれが厳重に注意をしろ――精霊達は自分達の住む領域に侵入者が現れれば、監視及び捕らえようとしてくるからな」
リキアは真剣な眼差しをして、饒舌にそう言った。
どうも、焼き鮭です。波瀾の第3章がスタートします!
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「面白い!!」「精霊界で結局何すんの?」「自分もリキアと同じ帽子を被りたい」
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