3「夢の世界」
「――トウマ君って勇者目指してるんだ」
「うん!! 絶対に勇者になって魔王を倒してやる!!」
『なんだよ、これ……』
ある幼い少年と、見覚えのない顔の女性がそんな会話をしている。
この少年は自分か? ならこの女性は誰だ?
『知らない、こんなの知らない……なんなんだよ』
頭痛がする。
何故だか、この景色をずっと眺めていたら駄目な気がした。
「そっか……なれるといいね」
「うん!!」
すると、女性は咳き込んだ。
とても苦しそうな顔をして。
「大丈夫……?」
「トウマ君は、気にしなくていいわよ……げほっげほっ!」
女性が足を震わせて、その場に膝を付いた。
そこに少年が駆け寄り、心配そうな顔で見つめている。
「ごめんね、心配かけて……」
血痕を唇の端に残したままで笑みを浮かべ、女性は少年を宥めた。
『知らない、こんなのは知らない、僕じゃない、僕は誰だ?』
気が狂いそうになる。
思いきり反吐が出そうになる。
体中を血が出るほど掻き毟りたくなる。
その場に蹲って泣きたくなる。
頭を壁に打ち付けたくなる。
今すぐに死にたくなる。
とてもとても辛くなる。
何故だか人を殺したくなってくる。
全てを壊したくなる。
何もかもを失う怖さがする。
この女性が僕をおかしくさせた気がする。
そんなのはただ逃げているだけだと冷静な自分が促してくる。
嫌だ。嫌だ。もう見たくない。
「ちょっと――大丈夫!?」
「結構やばいかも……」
今度は老女が現れた。
その老女は膝を付く女性へと心配の声を投げかける。
女性は苦笑いし、老女と共にどこかへと消えた。
一人だけ取り残された少年は、未だに状況が理解できずにいたのか、笑いながら走って女性の後を追いかけていった。
すると一瞬だけ、焼け野原が見えたような気がした。
絶望と悲鳴と火炎が渦巻く、あまりにも禍々しい惨状が。
僕は心の底から恐怖し、絶叫した。
『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』
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「――はっ!!」
僕は飛び起きた。
目が覚めてから、自身の四肢を確認する。
どこも欠如していなかった。
「駄目だ、殺さないと……」
脳内が不明瞭な殺意に汚染され、僕は横になっていたベッドから降りる。
そしてふらふらとした足取りで部屋を出ようとした寸前、
「起きたのか?」
誰かから声をかけられた。
振り返れば、見知らぬ女がいた。
白銀の長髪に、どこまでも吸い込まれそうなほどに深い紅の瞳。
彼女は椅子に座って何かを書いていた。
「殺す……殺さないとだ。そうだよ、殺すんだ」
しかし、僕にとって彼女の存在は殺害の対象としか今は捉えることができなかった。
彼女の細い首へ、僕の両手がするすると滑るように伸びていく。
「しっかりしろ……明日から戦争をしなくちゃならないんだぞ」
「せん、そう……? あ……!!」
僕ははっとした。
そういえば僕は今日、リキアという女にスカウトされてここにいるんだった。
世界征服するって一緒に決めたんだっけ。
「ごめん……」
「何を謝る?」
「リキアを殺そうとしてた……」
「ん、それか」
するとリキアが吹き出した。
「馬鹿かお前は。私を殺そうとしてただと?」
「うん」
「私がそう簡単に誰かに殺されると思うか?」
「え? だって、それは……」
リキアの笑顔に僕は困惑する。
「私が殺されるなんて、そんなのは有り得ない。私を殺せるのは……多分魔王ガレアぐらいか」
リキアは自信を強く声音として表した。
そうだった。リキアという女性は到底僕では殺すことのできないほどに強い人だった。
確か、エルヴェル帝国の大将軍とかだった。
「ともかく、トウマの殺人衝動は明日まで取っておけ。明日なら、人を幾ら殺しても許されるからな」
「うん……」
常人からしたら歪んだ内容の会話を終え、僕は再びベッドへと戻った。
そういえばなんだか嫌な夢を見たような気がする。
最悪で最低な、昔の夢を。
どうも焼き鮭です。
「面白い!」「トウマとリキアが怖い!!」「自分もリキアと一緒に寝たい」
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