2「殺気」
「――私共にはもうどうしようもないのです。どうか、お救いを」
「必ず私達が救ってやるからな」
美辞麗句を言い、私は市長の家から出る。
「リキア様、市長様の様子はどうでしたか?」
「ヘルディア市街の衰退に気を病んでいたようだったな……」
市長は顔面蒼白であり、酷く羸痩していた。もしや市長も病に侵されているのかもな。
「トウマ、外出していた市民はいたか?」
「一人もいなかった……」
「そうか。流石に流行り病にはかかりたくないか」
私はそう言いながら、帽子を被りなおす。
トウマには外出している市民への聞き込みをしてもらっていたのだが、どうやら聞き込みも叶わないようだ。
「ウテナ、ユダ、レイラは閉店している店に窺ってみてくれ」
「了解……」「あいよ」「おっけー!!」
三人は共に返事をし、それぞれが分かれて町の店を探しに行った。
「エルヴィットとザギンク、トウマはルリオーネ将軍の元へ協力することができないか交渉してきてくれ」
「おっけーなのじゃ」「はい!! 急いで交渉してきます!!」「分かった」
三人にルリオーネの拠点が記された地図を渡し、三人は走っていった。
ルリオーネが交渉に乗ってくれるかどうかが不安だな。彼女は慎重で気の強い女だ。
「――そんなことはさておき。私は私の役目を全うするとしよう」
私は近くに転がる死体に近付き、手で触れる。
すると全身に嘔吐感と眩暈が広がり、思わず膝を付いてしまう。
「これが病気の特性か……」
私はニヤリと笑い、『蠧毒搾取』を唱える。
すると全身を襲っていた不快感が全て晴れ、手元に粉として病原菌が現れた。
それを瓶に入れ、私はニヤリと笑う。
「病原菌のサンプルは入手した……それに私の全身には一時的だが抗体ができた」
私はもう一つの瓶に唾を吐き、それを肩にかけていた鞄に仕舞う。
病原菌の瓶も鞄に入れようとした瞬間、
「何だこの殺気は……」
私は全身を襲う謎の殺気に警戒心を鳴らす。
周囲を見渡し、ふと、一軒の住居が目に留まった。
その住居の屋根に一人の少年が座ってこちらの様子を窺っていたのだ。
「貴様か……私に殺気を向けるのは」
「そうだけど」
少年は屋根から飛び降りて私の前に着地し、青い痣のある頬を乱雑に掻き毟る。
肌が剥げ、赤い筋繊維が露わになる。
私はその自傷行為に気持ちの悪さを感じ、少年を睨み付ける。
「お前って、もしかして帝国の大将軍だったりする?」
「そうだが?」
「やっぱりだ……ボクの好みじゃないけど、ヴァルハが喜びそうだなぁ」
「知らぬ者の話をされても困る」
「それは酷くないかなぁ……さっきからお前達のことを監視していたのにボクは無視されてたんだよ? その分ボクの話を聞きなよ」
少年は哄笑を浮かべ、計り知れない殺気を更に漂わせる。
私は魔法陣を展開させ、戦闘態勢に入る。
「ボクはまだ戦う気なんてないよ……?」
「嘘を吐くな。ならば貴様のその殺気は何だ?」
「これはボクのものじゃないよ?」
その瞬間、私は吹き飛ばされた。
「――っ、まさかもう一人いるとは……?」
私はそう言いながら立ち上がり、制服に付いた塵を払う。
魔法障壁で衝撃の大半は受け止めたが、体の節々が痛んでいる。
見れば、少年の隣には一人の青年がいた。その青年に私は吹き飛ばされたのだ。
「お兄ちゃんは戦うつもりはないからさ……瘴気人形とヴァルハで、あの女を始末しろ」
「お兄ちゃんの仰せのままに」
ヴァルハと呼ばれた青年は無表情のまま応答し、瘴気を纏った無数の人形を召喚する。
私はその光景を目に、ニヤリと笑った。
「面白いじゃないか……相手になってやろう」
私は巨大な魔法陣を展開し、『雷戦霆獄』と『霖氷鋭刃』を唱え、ヴァルハに飛びかかる。
そして眩い電流と、潸々と氷の刃が瘴気人形を穿つ。
「無駄だよ」
「な――」
ヴァルハの拳を腕で防ぎ、しかし勢いを殺せずに私は近くにあった家へと衝突する。
しかし、反撃として彼に炎を浴びせていた。
「熱いな……」
ヴァルハは無感情な声音でそう呟き、倒れた瘴気人形へ黒い煙を浴びせる。
すると瘴気人形は起き上がり、損傷した体を再生する。
「中々に手強いな……」
私は唇から零れる血を手で拭い、再び魔法陣を展開する。
「『魔殲球』……!!!」
漆黒の球体を飛ばし、私は跳躍する。
そしてヴァルハを蹴り付け、氷の刃で胸元を抉る。
「無駄だって言ってるのに」
ヴァルハは胸元へ瘴気を浴びせ、体を修復する。
「君は、戦う相手を間違えたんだよ」
そう零すと、瘴気人形が彼の元へと集まり――そして彼の体へと溶けていく。
すると彼の体から夥しい量の瘴気が漂い、触れたもの全てを灰にしていく。
「これは厄介だな……」
私は舌打ちし、迫りくる狂気に意識を集中させた。
どうも、焼き鮭です。
もし
「面白い!!」「ヴァルハとの戦いはどうなるの!?」「自分もリキアの吐いた唾を飲みたい」
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