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1「大量殺人」

 「――帝国に仇をなす反乱軍をよくぞ討伐してきた」

 

 頭角に王冠を被った男――エルヴェル帝国の帝王が、顎をさすりながら声を響かせた。

 私は帝王の前にひざまずき、「はっ」と言葉を返す。

 

 彼はエルヴェル帝国初代帝王のエルヴェル・グランスタであり、その権威を使って大将軍、将軍、帝国騎士団を取り締まり、政治を行っている。

 

 「引き続き帝国の安泰を保つべく、リキア大将軍には国民による暴動を厳重に取り締まるように命ず」

 「御意」

 

 帝王の低い声に返答し、私は帽子を被る。

 すると、慌てた様子の帝国騎士数名が姿を現し、帝王の前に跪いた。

 

 「帝王様! 報告があります!」

 「ふむ、何があったのだ」

 「なんと、あの魔王が動いたのです!!」

 「なんだと!?」

 

 帝王は腰かけていた玉座から立ち上がり、驚いた様子で騎士を見下ろす。

 

 「はい……グレミア王国に存在する勇者育成施設に単身で乗り込んだようです」

 「まさかあの魔王ガレアが動くとは……」

 

 魔王ガレアとは、全世界を支配する最悪の魔族のことを指す。

 

 私は騎士の報告に、耳を疑った。

 

 「グレミア王国は我がエルヴェル帝国に隣接している。故に、帝国騎士団は国全体の警備をより強固にするがよい」

 「御意!」

 

 数名の騎士達は姿を消した。

 私はそれを見届け、

 

 「帝王様、もしよろしければ私は魔王を呼び戻すために魔界を襲撃しますが……」

 「その必要はない。リキア大将軍であろうが、無策に魔界へ戦争を仕掛ければその分の危険が大きすぎる。それにあちらには魔王ガレアがいる。魔界への潜入調査はルリオーネ将軍へ任せておるから、リキア大将軍が出向くことはしなくてよいぞ」

 「左様でございます。では私はこれにて」

 

 移動魔法を唱え、私はエルヴェル帝国の中心で賑わう繁華街へ向かった。

 

 今日はもう仕事は終えた。

 毎日のように凶賊と反乱軍の鎮圧を任されているのだが、それも退屈になってきた。

 

 「もう日が暮れるのか」

 

 空を見上げながら私は言った。

 そして溜め息を吐くと、酒場へと足を運んだ。

 

 「へい、いらっしゃ……い」

 

 酒場の店員である女が快活な声を飛ばしてきた次の瞬間、女の表情が恐怖に歪んだ。

 私は女へ近づき、

 

 「一名だ」

 「は、はい……」

 

 女は逃げるようにして厨房へと走っていった。

 それを見置き、私は席へと座る。

 メニューを開いては店員を呼び、焼き鳥と酒を注文した。

 

 「それにしても魔王ガレア、か……」

 

 この世界が神によって創造されてから今まで、魔王ガレアという男は全世界を裏から支配していた。

 隣国であるグレミア王国の勇者育成施設とやらに乗り込んだということだが、魔族からの陽動と思われるも生憎あいにくと私は興味がない。驚きはしたがな。

 

 「ご、ご注文の品です……」

 「ああ」

 

 あの女店員が手を震わせながら私の座る席へ、酒と焼き鳥を置く。

 運ばれてきた焼き鳥を、私はじっと見つめる。

 とても美味しそうだな。

 

 「あ、あの……また何かありましたら、お呼びください……」

 「分かった」

 「は、はいっ……」

 「あと」

 

 背を向けた女を睨み、

 

 「貴様は私が怖くてそのような態度を取っているのだろう? しかし、それは私にとって失礼に値する行為なのだが」

 「す、すみません……!!」

 

 女は私の言葉に涙目で応じ、厨房へと逃げていった。

 

 「そんなに私を怖がる必要はないと思うのだがな……殺す気などないというのに」

 

 私は溜め息を吐き、焼き鳥をかじった。

 おっ、やっぱり美味しいな。

 

 すると、一人の男が私の席へと歩み寄ってきた。

 

 「よっ」

 「シャロンか、奇遇だな」

 

 私と同じ大将軍である男――シャロンが私の隣の席へ座り、店員に何か注文をした。

 

 「そういえば、帝王様から魔王ガレアの話は聞いたか?」

 「帝王様からは聞いていないが、帝国騎士団に所属する者の報告を聞いた」

 「知ってたか、流石はリキアだ」

 

 シャロンは笑みを湛えて言った。

 

 「俺はどうやら精霊界で暴動を繰り返す、数名の犯罪者による組織を処刑しないといけなくなったから――まあ、さほど気にすることはないな」

 「魔王ガレア及び魔族が人間界へ何か仕掛けてくる可能性があるというのに、貴様は暢気な奴だな」

 「リキアには言われたくはねえよ」

 「――今何と言った?」

 「おお怖い怖い」

 

 シャロンの発言が気に障るが、私は酒を一口飲んで気を取り直す。

 

 「私は相変わらず反乱軍の鎮圧を任命された。そんなこと帝国騎士団に任せればいい話なのに、何故大将軍である私がしなくてはいけないのだろうか……ルリオーネ将軍ではなく、私が魔界へ攻め入ってやろうと思ったのに」

 「帝王様は大将軍の身分、地位、価値を知らないんだろうな」

 

 互いに帝王の愚痴を吐き合うと、シャロンは店員が運んできた酒へ手を伸ばした。

 そしてあおり、「仕事終わりの酒はうめぇ~」などと呟いた。

 

 「――そういえば、最近になって貧民窟ひんみんくつでの大量殺人があったらしいぞ」

 「貧民窟でか? 何故だろうか」

 

 スラムでは貧しい生活をする人々が、互いに互いを思いやり、助け合いを心がけていたはずだ。

 しかし、よりにもよって何故貧民窟で大量殺人が起きたのだろうか。

 

 「ここでリキアの出番というわけだ。お前なら兵を引き連れずに、一人で行っても殺される心配ないだろ?」

 「私を何だと思っているのかは分からないが、そうしないとな。私とて、貧しい人々がこれ以上殺されることを望んじゃいない」

 

 私は酒を飲み終え、焼き鳥を食べ終えると席を立った。

 

 「私の分の料金は払うが、シャロンは自分で払っていけよ?」

 「ケチな奴だな~」

 「黙れ、自分のことぐらい自分でどうにかしろ」

 

 私はそう言い、店を出ようとした。

 

 「それにしても、リキアらしくないことを言うんだな。『これ以上殺されることを望んじゃいない』とか」

 「ふっ、建前だけでもそれらしいことを言わないと、完全に薄情者だと思われてしまうからな」

 

 酒場のドアを開け、私は夜の繁華街へと出た。

 

 さて、私は貧民窟へと向かうとしようか。

 

 $ $ $ $ $ $ $ $ $ $

 

 「――これは酷い有様だ」

 

 貧民窟へと到着した瞬間、血と腐敗臭の合わさった臭気が鼻を突き刺すように襲ってきた。

 布や木の板を不整合に組み立てて作られた住居の横を、足元に散らばる腐乱死体を避けながら、私は進む。

 

 「貧民窟での大量殺人を行った者は、誰なのだろうな」

 

 しばらく歩き続け、ふと一人の少年がうずくまっているのを見つけた。

 私は駆け寄り、肩に触れて反応を確かめた。

 

 「ここで何があったのか知っているか?」

 「――」

 「一つでもいい。この地帯を荒らした者についての情報をくれないか?」

 「――」

 

 しかし、少年は何も言わなかった。

 

 死んでいるのか?

 

 沈黙したまま身動きの一つも取らない少年から離れ、私は再び歩き始めた。

 

 「まだ何の手がかりも掴めていないな……」

 

 そう呟きながら、ふと妙な寒気がした。

 全身をナイフで切り付けるような、そんな強い嫌気もした。

 

 「誰だ」

 

 背後に存在する『何か』に私は声をかける。

 しかし、『何か』は何の反応も示さなかった。

 

 「――素直に答えればよかったものの」

 

 私は不意に飛んできたナイフを躱し、魔法陣を展開した。

 

 「『魔殲球サジスト』」

 

 無数の黒い球体が浮遊し、ナイフの飛んできた方へと飛んでいく。

 すると球体が真っ二つに切断された。

 

 「現れたか」

 

 巨大な鎌を抱えた一人の少年が、そこにはいた。

どうも、焼き鮭です!

「面白い!」「自分もリキアに罵倒されたい!!」

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