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50 凶刃と呼ばれた男 その2

「其方、どうせなら此方の専属護衛になってみてはどうじゃ?」

「折角のお申し出ではございますが、ユーリ様はサフィール様ではございませんので難しいかと思われます」

 この町の象徴である蒼珠姫サフィール様であれば、護衛を専属で一個小隊付ける決まりだが、第四息女では、せいぜい外出時に一、二名付く程度だ。

 非礼は承知だが、今のユーリ様に専属護衛はありえない。


「ならば次のサフィールに此方がなって見せよう。それならどうじゃ?」

「それは大変幸甚なことではございます」

 サフィルネでは、町を繁栄へと導く蒼珠姫サフィールの世代交代が、数年前からずっと取り沙汰されていたが、後継者不足で延び延びになっていた。

 現在のサフィール様が近隣の領主へ輿入れが決まったのに、資格を満たす力を示せる者がここしばらく出てきていないのだ。

 町の活力源であるその存在が、非常に重要で必要不可欠なくらいは理解しているが、ずっと自分の剣技にのみ心を砕いてきた俺には、正直あまりピンと来ない話だった。


「そなたにとっては、そう歓迎すべきことでもなさそうじゃな」

「いいえ、勿論私も嬉しく思います」

「ならば良い。楽しみに待っておるのじゃ」

 うっかり心を見透かされたかと感じた俺は、慌てて賛意を表したが、満足そうに笑って去っていく少女の後ろ姿に、それは絶対ないと確信していた。

 ユーリ様は、サフィール様として認められるための試験を既に三、四回受けられて、かなり厳しい成績だと聞いている。

 それに次代のサフィール様は、第一御息女のイリス様だと専らの評判でもあった。


 だが翌年のサフィール試験で、人が変わられたかのように他を圧倒する力を見せつけられたユーリ様は、サフィール様になられてしまった。


「マルセル、どうじゃ?」

「―――お見事でございます」

 俺がいつものように訓練所へ行くために回廊を急いでいると、どこからともかくユーリ様が現れ、嬉しそうに話し掛けてこられた。

「ならば此方の元へ来るということでよいな?」

「畏れながら、私は衛兵の小隊を任されておりますので、その件はご容赦を―――」

「其方は約束を破る気なのか?」

「それは・・・・・・」

 確かにはっきりと断らなかった俺も悪いのだが、サフィール様の護衛には正直興味が持てない。

 はっきり言って子供の御守りだ。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ユーリ様は笑いながら仰った。

「其方、己より強い剣の使い手と交えてみたくはないか?」

「あまり護衛には関係ないと思われますが、とても興味深いお話です」

 剣技には人並み以上、いや衛兵隊で一番の自負がある。

 挑発だと分かっていても、刺激されれば自然と反応してしまうのは致し方ないところだ。


「ならば此方の側に居るが良い。いずれ会わせてやるのじゃ」

「―――どういう意味でございますか?」

「簡単なことじゃ。其方を凌ぐやもしれぬ使い手が、いずれ此方の側へ来ると言うことじゃ」

「新たに衛兵となる者に、何か心当たりがおありなのでしょうか?」

「衛兵か―――護衛であれば先に衛兵にもせねばなるまいか。それはちと面倒じゃな」

 第一御息女のイリス様とは正反対の、どちらかと言えば凡庸な印象しかないユーリお嬢様のはずなのだが、前回会った時も、そして今回もかなり様子が違うと俺は思っていた。


「・・・・・・あなた様は、本当にユーリ様なのですか?」

「そうでもあるしそうでもない。ならば逆に問うてみるが、マルセルよ、其方がマルセルだと言う証は何じゃ?」

 我ながら変な質問をしたものだと考えたが、ユーリ様は怒られるわけでなく、よりおかしな質問を返され、俺は答えに詰まってしまった。

「生まれてからそう呼ばれてきたからか? であれば最初に他の名で呼ばれれば、マルセルなどではなかったと言うことじゃな?」

 とても哲学的な問い掛けで、剣しか能のない武辺者の俺には何と答えてよいか分からなかった。


「そなたは親からマルセルと言う名を与えられて、マルセルとなった。ユーリもそうじゃ。ならばサフィールは誰が与えた名じゃ?」

「申し訳ありませんが、詳しく存じ上げません」

 この町の起源と同じなのだろうが、その名がザーブ帝国の時代には既にあったことくらいしか、俺は知らない。

「つまりはそう言うことじゃ。此方にとって名や形など大した意味はない。此方は望まれたから、その名で呼ばれこの姿でおる。其方は誰に望まれてその姿でおるのじゃ?」

「それは―――」


 一番簡単な答えは、父、母だろう。

 しかしこの少女が、そのようなことを聞いているのではないことは分かっている。

 だが上手い言葉が見つからない俺は、ただ思いつくことしか口にできなかった。

「私も周囲から、そう望まれているからです―――」

「凶刃マルセルであれば左様であろうな」

「畏れ入ります」

「つまりどれだけ必死になって衛兵の中で地位を上げようが、今の其方が望まれるのは所詮その程度と言うことじゃ」

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