35 悪魔のロッド 後編
「さすがケントさんのいかがわしい手ほどきを受けたロッドです。師匠に似て油断も隙もありませんね」
マ、マルセルさん、心を読んだかのようなことを嬉しそうに言わないでください。
これはきっと、さっきの無視の仕返しだろうな。
しかしどうしてこうなった!?
お嬢さまの発言がフラグになってしまっているんじゃないか?
俺的には諸手を上げる白旗以外に考えられない。
思わずダジャレで突っ込みを入れたくなるほどの大惨事発生だ。
「ハァハァハァ、もう、直してよっ!!」
お嬢様は、目に涙を浮かべて俺へロッドを投げつけてきた。
侍女様がこの場にいなくて本当に助かった。
しかし何がおかしかったのやら。
俺は試しにロッドを握ってみたが、何も反応はない。
この針金自体が、非常な女好きと言う可能性はとりあえず置いておこう。
つまりサフィール様は本物と言うことだ。
それから小百合が正月に遊びに来ていた時に、コタツでキャアキャアと騒いで視ていたテレビ番組を思い出す。
ダウジングって、確か金属以外では水脈探しにも使われていたな。
ああ―――それでは過剰な反応もうなずける。
だってここは噴水広場だもん。
「お嬢様、ロッドはそのままで少し場所を変えませんか?」
「どうしてよ!?」
「少しだけ気になることがありますので」
完全に疑いの視線を向けられた俺は、ちらっとマルセルさんを見て、味方へ引き込む。
今回はお仲間に誘いましたよ、ね?
「お嬢様、ケントさんにとても良く似たおかしな動きではありましたが、これまでにないほど強い反応ではありませんか?」
「そ、それはそうだけど」
「ここはもう一度、信じてみませんか?」
「マ、マルセルが言うなら、分かったわ」
執事さん、味方をしてくれるなら素直にしてよ。
まあ助かりましたけど。
そして俺が噴水からかなり離れた場所へ苦労しながら埋め直した腕輪を、お嬢様は胸を挟まれることもなく見事に見つけ出された。
本当に良かった。
こちらの世界で、新たに『変態ロッド使い』の二つ名を得る危機は免れたようだ。
その翌日、気を良くしたお嬢様がロッドをフリフリ満面の笑みで言い出された。
「どうやらロッドもわたくしも治ったみたいだから、ちょっと行ってみない?」
室内でそんな尖ったものを振り回さないで欲しい。
目にでも刺さったらどうする気だ。
迷惑そうな俺に気づかない振りで、笑顔のマルセルさんが答えた。
「サファイア探しですか?」
「そうよ。でも見つからないと大騒ぎになるから、少し前に閉じた山でどうかと思うのだけど?」
「どちらをお考えですか?」
「馬で十日ほどのロドビ鉱山はどうかしら」
「なるほど、悪くはないですね。そうと決まれば早速準備に掛かりましょう。ミネバさんは、お嬢様の旅のご用意を」
「かしこまりました」
「ケントさんは―――馬を見に行きましょうか?」
「え? どうしてです?」
「だって旅ですよ? お一人だけ歩かれるつもりでしたら無理にとは言いませんが・・・・・・」
急に黙ったマルセルさんがにんまりと怪しげな笑みを浮かべた。
「なるほど、またお嬢様の馬車に乗っていかがわしいことを―――そうですね、ミネバさんも今回は来られるのでお二人相手によからぬことを―――ですか」
「わ、わ―――っ!!!」
この執事さん、まったく油断も隙もあったもんじゃない。
こらこらお嬢様、服も着ているのに、真っ赤々な顔をしてあからさまに胸と大事なところを手で隠すんじゃない!
俺が触ったのは腰だけだろう!?
―――十分セクハラで訴えられて負けるな。
そして今日も今日とて、侍女様の目には殺気が・・・・・・。
だがこの騒ぎの原因の執事さんは、楽しそうにニコニコとしている。
誰でもいいから、この人の手綱を握ってよ。
しかしながら散々揉めた挙句に、お嬢様ご一行は出発できなかった。
そりゃそうだ。
お嬢様って言ってるけど、蒼珠姫、つまり実質はお姫様だよ?
何で執事さんと俺と侍女さんの四人で、旅に出られるって考えられるんだ?
どっかの髭の生えた黄色い御隠居様じゃあるまいし、あれでも供回りは五、六人はいたぞ。
そうなると俺の立ち位置は、間違いなく助さんの方だな。
ユーリ御隠居を挟んでの立ち位置じゃないぞ、文字面の話だ。
もちろんスケベの―――自分で認め始めては末期症状かもしれない・・・・・・。
そして諦めきれないユーリお嬢様は、新しくお嬢様の指南役となった俺に色々な現場を見せるとの触れ込みで、お屋敷の裏山へ入ることを決められた。
その中で、採掘が終わった坑道や現場へ立ち寄ることにされたのだが、何かと準備が必要なのと、ご領主様へも話を通す必要があるのでもう少し後になるとのことだった。




