34 悪魔のロッド 前編
「今日は何だか調子が良さそうだわ。ちょっと試してみましょう」
ある日の朝、お嬢様は通称サフィールロッドを持ち出して、ご機嫌そうに言い出された。
「一体何をされる気ですか?」
「ケント、これを埋めて来なさい」
そう言って、左手首のサファイアの腕輪を俺へ渡された。
どこかで見た記憶があるような、無いような。
俺の不審げな視線を感じたお嬢様が、何を勘違いしたのか説明をしてくださった。
「少し前にお屋敷の宝物庫から見つけ出した物の中で、一番しっくりと来るものなの。お母様の腕輪に何となく似た感じをしていたので手に取ったら、意外に行けそうな気がするのよ」
そう言われてみれば、腕輪をされているのを俺が見たは今日が初めてだ。
しかし何か引っ掛かったのはそんな理由ではないので、しげしげと考えてはみたものの何も思い出せなかった俺は、お嬢様へ尋ねた。
「埋めるのは、どこでもいいのでしょうか?」
「あまり人目にはつきたくないので、向こうの噴水のある広場にしましょう」
「分かりました」
確かにあそこは灌木や植栽に遮られていて、建物側からかなり見えにくくなっていた記憶がある。
つまり俺が埋めるのも見えないし、お嬢様もズルはできないと言うことだ。
そして俺は噴水広場へ来てから、適当な植え込みの下へ穴を掘ってみた。
・・・・・・何だこれは?
湿った土が上へ来て周りと色が変わるし、ダウジングなんかやらなくても絶対分かる。
そこで俺は、辺り構わずそこいら中に同じような穴を掘りまくった。
いわゆるカムフラージュと言うやつだ。
しばらくすると、お嬢様がサフィールロッドを両手に構えて神妙な面持ちでやって来られた。
そして困ったように植え込み周りをうろつき始める。
うん、色の変わった土のあるところを見つけてひたすら右往左往している。
それも全然ダウジングロッドを見ていない。
本当にロッドを反応させてサフィール様になったのか怪しすぎる。
「こ、ここよ!!」
あー、ハズレ。
俺は一応堀り起こすが、もちろん何もない。
「こ、ここ、絶対っ、ここ!!」
再びハズレ。
「何だー、ここでしょ! もう、分かりにくいところに隠して!!」
いやいや、分かりやすかったら意味がないだろう。
でもハズレ。
そしてお嬢様の動きが止まった。
「ケントのいじわるー」
「本当に底意地の悪い指南役ですね」
いつの間にかやって来て、お嬢様の手元を覗き込んでいるマルセルさん。
俺は、あなたにだけは絶対負ける自信があります。
身に覚えのないとは言わないが、いささか過剰な非難を受けた俺は、溜息交じりにお嬢様ヘ左手を差し出した。
「少しだけロッドをお借りできますか?」
「い、いいけど、おかしなことに使わないでよ?」
・・・・・・俺の評価は一体どんなんだ?
一瞬止めてやろうかと思ったが、見た当初から気になっていた歪みを、腰の剣と噴水の台座に挟んでまっすぐにした。
次に台座の角を使い、開き気味のロッドを完璧な直角に仕上げる。
ここにはまともな道具がないから、せいぜい今はこの程度だろう。
「何をしたのよ?」
「―――ケントさん、やはりこのロッドのことを何か御存じなのでは?」
俺の手元にある、見るからにシャキーンとしたダウジングロッドを覗き込むお二人。
あー、すっかり大事なことを忘れていたー。
俺って記憶喪失だよね?
落胆するお嬢様を見かねて、やってしまったものはもうしようがない。
「け、剣でも矢でも、まっすぐの方が正しく機能を発揮しますよね。それと同じかなーっ、て」
く、苦しい。
我ながら、本当に。
だがお嬢様の目が見る見る輝いてきた。
「そ、そっかー。そうよね! わたくしがそれを持ったまま寝ちゃって、思いっきり曲げてしまったのを何とか直したのだけれど、それがいけなかったのね!」
・・・・・・このお嬢様は、大切な腕輪を落っことして割っただけでなく、ロッドも尻に敷いてひん曲げてたのか。
ん? 尻とは一言も言ってないか。
しかしチョロい、チョロ過ぎるぞ。
ならば俺は、マルセルさんとは視線を合わせないようにお嬢様と話を進める。
「そうですよ! だからもう一度やってみてもらえますか」
「分かったわ!」
もともと反応がなかったのだから、これで良くなれば儲けもの。
その程度のつもりだったのだが―――。
「キャーっ!!! ロ、ロッドが胸を―――っ!! だからおかしなことしないでって言ったのにぃ―――っ!!!」
お嬢さまの悩ましい悲鳴の先では、二本のダウジングロッドの先端がお嬢様の方へ向き、その生意気そうな胸を思いっきり挟んでいる。
あの胸にめり込む針金、まさしく神業だな―――いや、この後の俺自身を考えると悪魔の所業か。
一体誰のせいだ?




