25 演技だよね?
「悪い、起こしちまったな」
「―――剣人、いくら小百合がかわいいからと言って、そんなに強引では嫌われるのじゃ」
「・・・・・・小百合?」
「そうじゃ、小百合じゃ」
「・・・・・・何か舞台の稽古か?」
どこかおかしい・・・・・いや、いつもおかしいが、更に不思議な雰囲気となった従妹と俺は、ベッドの上で微妙な雰囲気のまま、しばし見つめ合った。
「小百合?」
「何じゃ?」
「その言葉使いはどうした?」
「おお、いかんのじゃ。気を抜くとつい―――」
「何か辛いことがあったのか? 俺でよければ相談にのるぞ?」
俺達は、ベッドの上で正座をして向かい合っている。
それも俺はパジャマの前が開いたまま。
まったく締まらない変な光景だ。
しかし俺は、小百合にが何か嫌なことがあって、別の自分になりたいとの変身願望をかなえようとしているのか、自暴自棄になっているのではと真剣に心配をしたのだが、小百合の肩がプルプルと震え出した。
「そ、其方がそれを言うなーっ!!」
「へ? 俺?」
「そうじゃ! この身を呼び出しておいて、更に戻れなくするとは、とんでもない鬼のような所業なのじゃ!」
「・・・・・・夏祭りに小百合を呼んだのは親父だろ? 無理矢理、将来契約をしたのもあの海ゴリラのはずだぞ?」
「何を言っておるのじゃ、其方は!」
「俺の方こそ、お前の言っている意味が分からないんだけど?」
まったく話が噛み合っていない。
しかも今は真夜中だ。
こんなにエキサイトされると、ゴリラと母さんが様子を見に来るかもしれない。
いかに両親公認の既成事実化している添い寝でも、さすがにこっぱ恥ずかしい。
何と言っても、俺は健全な男子高校生だ。
小百合には少し冷静になってもらう必要がある。
俺はベッドを下りて、部屋の壁際に置かれた部活のカバンから紙袋をごそごそと取り出し、中のものを小百合の前へ差し出した。
「美優ん家のクイニーアマンだ。ちょっとこれでも食って落ち着け」
こんな時間に小学生へ砂糖だらけの非常に甘い菓子パンを与えるなど本来はダメなことだ。
しかし背に腹は代えられない。
これは小百合の大好物なのだ。
「―――何じゃそれは?」
だが今日は全然食いつきが悪い・・・・・・と思ったら、どうやら袋に入った別のパンが気になっているようだ。
「こっちはハンバーガーだけど、もう冷たいし、バンズもビショビショになってさすがに美味くないぞ?」
「そっちが良いのじゃ!」
一応取り出して見せたところ、小百合が飛びついて来た。
何故だ?
これまでに見たことがない反応だった。
そして小百合はビリビリに包装を破って、ハムハムと食べ始めた。
別人を演じる練習がまだ続いているにしては、真に迫り過ぎている。
俺は訳も分からず、ただ黙って小百合が食べ終わるのを見ていた。
「ふう、やはりあの娘の家のパンは美味いのじゃ」
「おいおい、あの娘って、いつもミユちゃんって呼んでるだろう?」
「もういいのじゃ。どうせこの娘も安心して寝ておるのじゃ。お蔭でこうして其方とも話せる」
「小百合? 何を言っている?」
「此方は、小百合ではないのじゃ」
「こなた?」
「そうじゃ。しかし此方は其方を良く知っておる、剣人よ」
当たり前だ。
俺も小百合のことは、嫌と言うほど良く知っている。
オシメを変えてやったことを小百合は知らないだろうが、風呂に入ったことくらいは、そう昔の話ではないし覚えくれているだろう。
「中学に入ったころ、あの父親と大喧嘩をして、泣きながら此方のところへ来たであろう?」
「は?」
「初めてフェンシングの試合に勝った時も、嬉しそうに報告へ来てくれたのも覚えておる」
「―――な、何を言っているんだ?」
「他にもあるのじゃ。初恋は小学校の担任の松本先生であったな。その女子と結婚できますようにとか、色々マセたことを此方へ頼んでおったのじゃ」
「わーわーわーっ!!!」
ヤバい、こいつ本当におかしくなった!?
どうする?
夜中だけど親父のところへ行くか?
それとも、もう一回寝かして明日の朝に様子をみるか?
ひょっとして変な夢を見て寝ぼけているだけかもしれない。
―――小百合だけじゃなく、残念ながら俺もだ。
正直、昼間あんなことがあってから、これが現実なのか自信がなかった。
「まだ分からんか? 本当に仕方のない鈍さじゃ。道理でこの娘もあの娘の苦労をするはずじゃ」
「おい?」
「剣人、ここへ座ってよく見ておくのじゃ」
小百合が、ペタペタと自分の隣を叩くので、仕方なく俺はそこへ座った。
「うおっ、ち、近い!」
「うるさいのじゃ。黙っておれ」
そうは言っても、鼻の頭が当たるほど目の前に小百合の顔がある。
「あまりこの娘の身体に負荷は掛けとうないから、すぐに止めるゆえ心して見ておれ」
「何を―――」
俺は最後まで言葉が続かなかった。




