24 いつもの添い寝
「ああ、ほんと疲れた―――」
妙に片付いた部屋を見た俺は、これまでに感じたことのない気怠さと些かの背徳感から無意識に声が出た。
とりあえず恋人達のことは考えないことにしよう。
また何処かで―――多分この家の蔵か町の古本屋だろうけど、出会う日もあるだろう。
俺はベッドへ横になり、昼間のことを静かに思い出す時間がようやく持てた。
あれはやっぱり夢だったのか?
あの女の子は一体何者だったんだ?
俺は奥社へ行かなかったのか?
実際は行って、自分で走って戻って来て、疲れてうたた寝をして夢でも見ていたのか?
狩衣も間違いなく濡れていたし、剣を腰に差し、スニーカーも履いたままだった。
それとも今、これも夢なのか。
もしそうなら、親父の拳骨の痛さを再現するなんて、ある意味本当に恐ろしい夢だ。
グダグダと答えの出ない迷路に入り込んだ俺は、そのまま寝入ってしまったのだが、ふと気がついて起こされると、疲れた両腕の間に黒い物体がモソモソと動いている。
・・・・・・小百合だ。
この従妹は昔から俺のベッドに入って来て、腹を出してよく寝ていた。
お蔭で俺は、こいつの腰へいつも手を当てて、パジャマがはだけないようにしてやるのが癖になっている。
だがいつもなら、こんなに密着しようとしないのだが、今日はやけにくっついてきている。
それにどうして、俺のパジャマの上衣をめくっているんだ?
ズボンを脱がされたら、さすがに起き上がろうと思ったが、暫く様子を窺うことにした。
「うーん、多分ここで良いはずじゃ」
うひゃ、冷てぇっ。
小百合が、俺の敏感な左胸の先っちょに何かを当てたらしい。
思わず体がビクッっとなって、俺が起きたのか心配した小百合の手も止まり、息を潜めている。
暫くして、俺が起きないのを確認してから、再びモソモソを何かをしたが、それ以上は何もなく小百合も寝てしまったようだ。
今度は俺が小百合を起こさないようにそっと首を下へ向けて、おっぴろげられた俺のパジャマの中で小さな寝息を立てている従妹と、その手に握られていたものを見た。
―――これは蒼玉の腕輪か?
俺の左胸へ当てられているのは、去年、ゴリラ親父が夏祭りで面白い見世物と大盛況のお礼だと言って、小百合へ渡したものだ。
こいつは、ガキの頃から俺の神楽を見て覚えているから、決まった動作をする俺の先に回って、わざと斬られたふりをして、スカートをヒラヒラさせたり、俺の衣装を引っ張ったりやりたい放題だった。
もちろん、小百合の二人の仲間にもしっかり教えて見事なチームワークを発揮し、俺を翻弄してくれたのだ。
親父がゴリラなら、小百合が猿回しで、俺が見世物のサルってところだ。
だが、いくらなんでも宝石は小学生には過ぎたものだから、小百合の両親が慌てて返しにきたのを、ゴリラが強引に説き伏せたのだ。
どうせ休みにこっちへ遊びに来るなら、その間は神社の祭りの舞台へ参加してくれればいい。
その契約料のようなものだ、と。
それに親父が言い出したことを聞かないのはいつものことなので、小百合の両親もかなり困りながら、受け取ることにしたのだ。
はっきり言えば、物凄い価値がある代物だ。
神社の御神宝の一つと言っても過言ではない。
そう簡単に人へ譲っていいものかと聞かれれば、次代の宮司である俺としては答えに困る。
だが現在のゴリラ宮司は、あの腕輪を着けた小百合が有名になれば、その由緒を聞かれるようになってこの神社も有名になる、多分、その程度の考えだろう。
それと、単純に小百合は親父のお気に入りだ。
なので小百合が、親父から怒られたのを俺は一度も見たことがない。
こんな風に大事な神社の跡取りへ、休みが来る度に夜這いを掛けていることは知っているのに―――冗談です。
しかしこの俺の姿を見られたら、小百合は大丈夫でも、俺は間違いなく足腰が立たないようにされるだろう。
なのでパジャマだけは何とか着るために、俺は腕を動かしたところ、やはり小百合を起こしてしまった。
「う、うん―――?」
「悪いな、ちょっとだけ我慢してくれるか。すぐに済むから」
・・・・・・か、勘違いするなよ、イヤらしい意味ではないぞ?
「あー、ダメェー」
「ちょ、ちょっと、小百合さん?」
・・・・・・だからおかしな誤解を生むから、変な声を出すな。
「そんなに動かしちゃダメぇー」
「動かさないと、俺の先っちょが何時までも外に出たままだろう?」
・・・・・・間違いなくおかしな会話だ。
寝ぼけた女子小学生を相手に俺は何を言っているんだ。
このままではいけない。
俺は小百合をベッドから落っことさないよう気をつけて、はだけたパジャマごと静かに体を起こしたつもりだったが、やはり小百合を目覚めさせてしまった。




