26 カラコン―――じゃない・・・・・・
「お、お前、その目?」
「そうじゃ、見覚えがあるであろう?」
「い、何時カラコン入れたんだ!?」
「この痴れ者が!!」
「・・・・・・すまん、冗談だ」
このくらいやらないと、あまりに色々ありすぎて俺の精神の均衡が崩れそうだったんだ。
小百合の目は、周囲が茶色で瞳は見事なまっ黒くろすけだ。
しかし今は蒼い―――。
それは間違いなく御山で見たあの女の子の目だ。
「分かったようじゃの」
「・・・・・・本当にあの女の子なのか?」
「女の子と言われるのはなんとも面映ゆいが、そうじゃ。此方は、其方らが信奉する御山の祭神じゃ」
「・・・・・・う、嘘だろう」
口ではそう言っていたが、もう分かっていた。
あれだけ人に教えたことのない秘密の扉を、無理矢理こじ開けられたら誰でも信じざるを得ないだろう。
まさに神のみぞ知る話なのだから。
しかし最後の松本先生は、完全に爆死ものの禁忌だぞ。
「まったくこんなにも手間を掛けさせおって、困った者じゃ」
「あなたが神様だとしたら、何で小百合に入っているんだ?」
あまり敬った話し方にならないのは、やっぱ相手が小百合の格好をしているからだろう。
相手もそんな細かいことは、気にする様子もないようだ。
「さすがに蒼玉を継ぐ神主というべきか、信じれば変わり身がまったく早いことじゃ」
「当たり前だ。御山はずっと俺の心の拠り所なんだ。その神様って言うなら信じるしかないだろう」
さっきの辱めが無ければ、多分信じなかったけど。
「殊勝な心掛けじゃ。しかし此方の顕現は其方のせいじゃ。もっと反省するがよい」
「俺が何かやったのか?」
「もう忘れておるのか。おかしな舞を奉納したであろう?」
「―――またその話か。あれは小百合に踊らされただけだ」
「違うのじゃ。先程の御山でのことじゃ」
「・・・・・・左写しの青海波か?」
「そうじゃ。あれのお蔭で、此方は戻りたくても戻れないのじゃ」
「そ、そんなに大変なことをしてしまったのか? そう言えば神封じの舞とか?」
「そうじゃ。おかしな剣を使って変に道を塞ぎおって、神刀と正しい舞で道を付け直すまでは帰れないのじゃ。明日にでも本殿から刀を持って、奥社へ行って舞うが良いのじゃ」
「・・・・・・それは無理だ」
「どうしてじゃ?」
「御神刀は例大祭以外は絶対持ち出せない・・・・・・親父と約束しちまったからな」
どう考えても、神様をこっちの世界に呼び出して戻せなくなったなんて説明は信じて貰えないだろう。
俺の日頃の行いが悪いからとかじゃないぞ?
「―――そうか。であれば夏の祭りが直ぐにあるし、此方はこのままでも構わんのじゃ」
「・・・・・・小百合はどうなっちまうんだ?」
「何も心配いらん。この娘が寝ているときだけ此方が出てくれば悪い影響はでないし、夢を見ていると思っておるのじゃ。しかし娘の意識がないからといって悪さをするのではないぞ? 強いショックがあれば、此方を押し退けて意識を取り戻すかもしれん」
大丈夫、そもそもする気もないし。
だが本当に安心した。
おかしくなったのは小百合じゃなかった。
いや、この言い方は神様に失礼か。
「―――じゃあ、俺を助けてくれたのは神様だったんだな?」
少し、いいや、かなり引っ掛かるのは、山頂から引きずり落としたのもこの神様なんだよな。
「そうじゃ。其方がおかしな舞を舞ったので少しお仕置きをしたのじゃ」
「・・・・・・それで強制転移って、か、勘弁してくれ」
俺は一言絞り出すのが精一杯だった。
「あのまま封じられでもしたら、此方がどこへ行かされるかやも知れず、仕方なく此方ごと本殿へ移ることにして跳んだのじゃ。しかしまだ勘弁はできないのじゃ」
「ど、どうして?」
これ以上何をやらされるのか。
本気で俺はビビった。
「此方はこの娘の身体に入らねば其方と長く話すこともできないから、やむを得ず入っておるが、まったく力が出ないのじゃ」
もともとはあの大きな御山から力を得ているのだろうし、不思議ではない。
「だから其方から生気を取っておったのじゃ。それを何を考えた喜んでおかしな声を上げおってからに」
「き、聞こえていたのかっ!?」
「当たり前なのじゃ」
「さ、小百合には!?」
「さっきも申したのじゃ。其方の先っちょにこの娘が大切な腕輪を自らの手で当てたら、其方が喜んだ夢を見ておるはずじゃ」
―――あぁ、何か大切なものを失くした気がする・・・・・・。
「すべては其方が此方を顕現させるからじゃ。生気の供物くらいしてもらわねば、割に合わぬ」
「それを言われると反論できないけど、何で俺なんだ? 生気と言うか、体力のあり余ったゴリラを良かったら紹介するぞ?」
「・・・・・・雄司のことじゃな」
さすが神様、ゴリラ親父の名前を知っているとは。
「生気を取る方も、取られる方にも何かと制約があってな。まず此方と同調するために、御山で出された蒼玉、もしくは同程度のものが必要なのじゃ」
「だからこの腕輪を持っている小百合か」
「そうじゃ、それも余計な邪気が混じらぬように生娘であることが必要なのじゃ」
―――それはノーコメントだ。
「この娘はまだ生娘であろう?」
だから答えたくないのに聞くんじゃない!
「何を照れておる? 此方が入っているのだからそうに決まっておる」
「だったら聞くな!!」
このダ女神が!




