<EP_063> 新しいスーツ
ファン感謝デーが終わり、その撤去作業を眺めていると、窪田がやってきた。
「窪田、お疲れ様」
「お疲れ、GM」
「広島に戻るんだってな」
「ああ、長いことカミさんや子供を放っておいたからな。これからは、家族サービスをしてやらねぇとな」
窪田はちょっと照れくさそうな顔を見せた。
「そうか……キミにはフロント入りをお願いしたかったんだけどな」
「まだ、働かせるつもりだったのかよ」
「”早島の闘将”を遊ばせておく理由は無いだろ?」
「……GM、早島に呼んでくれて、ありがとな」
「俺は何もしてないさ。呼んだのは平瀬先輩だ」
「あのまま今治にいたら、サッカーが嫌いなまま辞めてたと思う。GMが無理して引き抜いてくれたから、今の俺がいると思ってるよ」
「そうか……なぁ、窪田。サッカー好きか?」
「わかんねぇ……でも、サッカーの野郎、最後は少しだけ笑ってやがったぜ。少しは見返してやれたかな」
二人の周りに風が吹いた。。
「SRC広島にコーチとして呼ばれたんだって?」
「ああ。サワのサッカー選手の原点が早島なら、俺のサッカー選手の原点は広島だからな。広島に恩返ししねぇと」
「そうか。なら、来季のプレシーズンマッチではよろしくな」
「ああ。返り討ちにしてやるよ」
二人は握手を交わすと、ネームプレートがカチャカチャと鳴っていた。
「いやぁ、迫水くん。お疲れ」
「井納会長、本日はありがとうございました」
窪田の背中を見送っていると、井納が声をかけてくる。
「気にするな。ワイらもしっかりと稼がせて貰ってるからな」
「来季からも、よろしくお願いします」
指で円を作りながらニヤリと笑う井納に、迫水は深く頭を下げた。
「今度はJ3じゃからな。こちらこそ、しっかり戦ってくれよ」
井納に肩を叩かれ、ネームプレートがガチャガチャと鳴る。
「さて、迫水くん、ちょっと話があるんじゃが……」
井納の言葉に迫水は身を固くした。
「な、なんでしょう……」
「実はじゃな、J3昇格のお祝いとして、キミにスーツをプレゼントしたい」
「は?」
意外な言葉に迫水はポカンと口を開けてしまう。
「キミのスーツは既にボロボロ過ぎる」
井納は迫水のスーツを指差す。
「東郷さんとも話したんじゃが、この早島と児島は、昔から糸と布で飯を食ってきた街じゃ。そんな街の看板になるチームのGMが、ボロボロの吊るしのスーツでいたのでは、紡績の街のプライドが許さんのじゃ。是非とも、プレゼントさせてくれ。今から作れば、開幕までには間に合うじゃろ」
「あ、ありがとうございます」
思わぬ申し出にネームプレートが少し寂しげな音を立てた。




