<EP_057> 五千人の背中
「ジャガーズ、選手交代をお知らせいたします。ジャガーズフォワード工藤に代わりまして、窪田、窪田敏充が入ります」
後半開始直前、アナウンス嬢の言葉に早島運動場が震えた。
前半、体力温存のためベンチに控えていた、”早島の闘将”窪田がついに投入されたのだ。
後半開始のホイッスルが鳴ると、見違えるようにジャガーズにリズムが出てくる。
窪田が全盛期さながらにピッチを走り回り、前線からプレスをかけていく。
♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘 ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪
サポーターからもジャガーズの応援歌が威勢良く届けられる。
後半一九分、相手の中途半端なロングボールを青木が跳ね返すと、ボールは転々と右サイドへと流れる。
誰もがサイドを割ると思ったボールに”早島の韋駄天”猿島が追いつく。
そのまま猿島がピッチを駆け上がると、中央にいた”早島の貴公子”沢田へとボールを繋いだ。
沢田はそのまま中央をドリブルで駆け上がっていく。
前線に張り付いていた窪田へとパスを出す。
窪田はそのままボールをキープするとホンダのディフェンス陣を引き付け、再び沢田へとパスを返した。
そのままシュートに持ち込むと思った瞬間、沢田が左サイドへとパスを出すと、そこにはオーバーラップしてきた鷹野が飛び込んでいた。
鷹野の伸ばした脚に当たったボールはホンダゴールを揺らしていた。
早島運動場が大歓声とともに再び揺れた。
猿島がボールを抱え、すばやくセンターサークルへ戻すと、ゲームが再開される。
同点でも良いと思ったのか、ホンダFCが全体的に引き気味になり、試合は膠着し、時間だけが過ぎる。
ついに、後半アディショナルタイムに突入した。
センターサークル付近、ジャガーズ自陣寄りの場所でのホンダFCでのフリーキック。
青木が咆哮とともに跳ね返すと、沢田の元にボールが転がった。
「行けっ、サワ!」
青木の掛け声とともに沢田が中央を駆け上がっていく。
すぐに猿島が並走しはじめた。
猿島へのパスを警戒するホンダの選手を、沢田は一人、また一人と煙のように躱していく。
左サイドには鷹野もオーバーラップしていた。
三人目を躱し、前線にいた窪田の付近まで来ると猿島は大きく右へと走り出す。
沢田のドリブルは止まらなかった。
自分をマークしていたディフェンダーを背中に隠して、窪田は沢田の道を作ってやる。
「行け、サワ!」
「行ってください、沢田さん!」
「「行けっ!」」
「「「行けぇっ!」」」
五千人の大観衆が沢田の背中を押した。
突進してきたゴールキーパーをも躱し、沢田は無人のゴールへとボールとともに飛び込んだ。
ゴールが認められると、沢田はそのまま拾って、センターサークルまで走っていく。
ホンダFCがボールに触ると、試合終了のホイッスルが吹かれた。
早島運動場が一瞬静寂に包まれる。
次の瞬間、早島運動場は地鳴りのような音とともにジャガーズの応援歌が流れ、スタジアム全体が激しく揺れた。
「やった、やりましたよ!GM!」
涙を流して抱きついてくる京子に、全身のネームプレートが激しく揺れて答えていく。
迫水は動かず、ただ、拳を握りしめ、俯いてることしかできなかった。
「やったな、迫水くん」
手を差し出して歩いてくる井納に迫水は立ち上がって手を握る。
「次はキミの番じゃな」
井納が肩を叩いてくる。
「はい。選手たちに力を貰いました」
サポーターに手を振って答える選手たちを迫水は見る。
再び、全身のネームプレートが騒がしく音を立てていた。




