<EP_056> Jへの門番
「♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘♪こんにちは、早島の誇り、ジャガーズ早島で〜す。♪ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪本日は、JFL第二九節。ジャガーズ早島対ホンダFCにお越しいただき、誠にありがとうございます。♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘♪現在、皆様のお力添えによりジャガーズは首位。本日のホーム最終戦において勝利すれば、JFL優勝でございます。♪ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪どうか、皆様の熱い応援で、ジャガーズを優勝に導いてくださいますことをお願いいたします……」
早島運動場の前で、ジャガーズのラッピングバスがいつもの合成音声を流していた。
第二八節を終えて、ジャガーズは一六勝八敗四引き分け。
ホーム最終戦の相手であるホンダFCはJFLの雄であり、一五勝七敗六引き分けと二位につけており、勝ち点の差は一点。
ホンダFCの最終戦の相手は最下位であり、ジャガーズの相手はJ3経験もあり、昇格圏内にいる、いわてグルージャと苦戦は必至だった。
ホーム最終戦ということもあり、ジャガーズはここで優勝を決めるという決意が満ちていた。
早島運動場には続々とレモンイエローのTシャツを着たサポーターが集まってくる。
前売りの時点で五千枚のチケットは売り切れ。
急遽用意した、ジャガーズ練習場でのPV会場の五百枚も既に売り切れていた。
レモンイエローに染まったスタジアムを迫水は上から満足げに見る。
良く見れば、首周りはヨレヨレで、色もかなり薄くなった服を着ている年配の方も多かった。
「♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘♪ ♪ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪……」
そんな人々が一斉に、趣味の悪い、ジャガーズ応援歌を歌っていた。
応援歌に合わせるようにネームプレートが音を立てる。
「GM、選手たちが呼んでいます」
客席を眺めていた迫水に京子が声をかけてきた。
迫水が控室に入ると、サロメチールの臭いが立ち込める中、選手たちが手を繋いで円陣を組んでいた。
「GM、入ってください」
青木が手を出してくる。
円陣に入ると、迫水の手を握り、反対を今日はベンチスタートの窪田が握る。
迫水のネームプレートが小さな音を立てた。
青木は大きく深呼吸すると選手たちを見渡す。
「みんな、次があると思うな。今日で決めるんだ」
「おおっ」
青木の声に選手たちと迫水のネームプレートが呼応する。
「そして、迫水GMに最初の日の誓いを、ここで再び誓おう」
青木の手に力が宿る。
「迫水GMに勝利を!そして、J3昇格だ!」
「おおっ!」
円陣が解かれ選手たちが一斉に拳を突き上げた。
その声は、最初の日とはまるで違う、猛獣の雄叫びであった。
「行くぞ、テメェら!」
平瀬の言葉に選手たちが動き出す。
青木が迫水の前で片手を上げる。
戸惑っている迫水の手を無理やり掴んで掲げさせると、力強くハイタッチを交わして控室を飛び出す。
続々と選手たちが迫水の手を叩いて控室を飛び出していった。
飛び出していく選手たちをネームプレートがガチャガチャと鳴り、鼓舞する。
最後に平瀬がゆっくりと歩いてくると、不敵な笑みを向け、拳を迫水の肩口に打ち付けた。
全身のネームプレートが鳴り、遠くから観客の雄叫びが聞こえてきた。
試合開始のホイッスルが鳴ると、観客のボルテージは高まっていく。
相手はJへの門番であり、JFLの歴史そのもののホンダFCである。
その組織だった攻撃にジャガーズは攻め込まれていく。
しかし、そこはジャガーズのキャプテンであり、”早島の地黄八幡”青木を中心としたディフェンス陣が跳ね返していく。
憤怒の形相で味方を鼓舞していく姿はまさに地黄八幡であった。
前半二四分、ジャガーズのペナルティエリア付近でのホンダFCのフリーキック。
フワリと蹴り上げられたボールに青木が競り合う。
ボールが落ちたスペースにホンダの選手が飛び込み右脚を振り抜いた。
ボールはそのままジャガーズゴールへと吸い込まれていった。
五千人の溜息が一斉に漏れる。
しかし、ジャガーズ選手に悲壮な顔をしているものはいない。
沢田がボールを拾い、ゆっくりと歩いていく中、青木を中心に集まったディフェンス陣が戦術の確認をしていく。
「このチーム、本当に強くなりましたね」
「ああ、そうだな」
本部席で見ていた京子が話しかけてくると、迫水は短く答えた。
(頼みますよ、先輩)
前半が終了し、控室に戻っていく平瀬の姿に、迫水が拳を握りしめるとネームプレートがカチャリと音を立てた。




