<EP_055> 王の帰還
後半になっても沢田の調子は上がらない。
後半二二分、沢田の元に青木からパスが飛ぶ。
沢田がすぐに右サイドの猿島にパスを出すと、猿島はすぐに沢田にパスを返して、一気にサイドラインを駆け上がっていった。
沢田はそのまま、ドリブルで駆け上がると前線にいる窪田へとパスを出す。
「サワ、そのまま、お前が来い」
窪田はパスを返すと、そのままヴェルスパディフェンダーを背負って、沢田の道を作った。
パスを受けた沢田は左サイドを見るが、鷹野のオーバーラップは間に合っておらず、右サイドの猿島へのパスコースも塞がれていた。
沢田が迷っていると、競り合っていたヴェルスパディフェンダーと窪田が交錯して倒れる。
倒れた時に窪田の右膝へ相手選手が被さってしまい、窪田が大声を上げた。
審判の笛は鳴らず、立ち上がったディフェンダーが迫ってくるが、立ち上がれない窪田に沢田は大きくサイドラインへとボールを蹴り込んだ。
「クボさん!」
窪田に駆け寄り、担架を要求する。
「だ、大丈夫だ。肩を貸せ」
額に脂汗をかきながら立ち上がった窪田に沢田は肩を貸すと、ピッチの外へと歩き出す。
「すいません、俺のために……」
「いいんだ。王を守ることが騎士の務めさ」
足を引きずる窪田の言葉に沢田は唇を噛み、下を向く。
「いいか、サワ。お前は早島の王なんだ。ただ、偽物の王の周りには偽物の騎士しか集まらねぇ。俺もサルも青木も全員がお前を王と認めているんだ。俺たちを偽物にはしないでくれよ」
「クボさん……」
「王様ってのは前を常に向いていなきゃいけねぇ。前を向くにはお前がお前に自信を持つしかねぇ。平瀬監督を信じる時間はお終いだ。お前がお前を信じるんだ」
二人がピッチを出ると、ピッチ外に用意されていた担架に窪田が寝転ぶ。
「サワ、本物の王様になれ」
サムズアップとともに、窪田は運ばれていった。
沢田がピッチに戻ろうとすると、窪田の代わりに入った工藤が背中を叩く。
「サワ、監督からの伝言だ。『俺の目も偽物にするなよ』だとさ。頼んだぜ、サワ」
ベンチを見ると、平瀬がサムズアップしていた。
中央へ戻る沢田の目から揺れは消えていた。
ヴェルスパのスローインで試合が再開される。
再開されると、すぐに沢田にボールが返される。
「サル!行くぞ!」
右サイドの猿島に声を掛けると、沢田はドリブルを開始した。
すぐに相手ディフェンスが囲むように立ちふさがる。
「どけぇっ!」
珍しく大声で叫び、そのままディフェンスの間を強引に突破していく。
「工藤さん!」
ディフェンスの間を抜けると、前線にいた工藤へとパスを出す。
「サル!走れ!」
沢田の檄に猿島が加速し右サイドを切り裂く。
相手ディフェンス陣が猿島に意識が向いた瞬間、「工藤さん、左だ!」沢田の声に左サイドの空いたスペースへとパスを出される。
そこにはオーバーラップした鷹野が駆け込んできていた。
「沢田!頼んだ!」
鷹野の低い切り返しに沢田の右脚が一閃すると、ボールはヴェルスパゴールへと吸い込まれていった。
「うをぉぉぉぉ!」
大分の空に沢田の咆哮が轟いた。
早島のPV会場にも大歓声があがり、早島に真の王が誕生したことを知らせる祝砲が上がった。
沢田を揉みくちゃにするチームに平瀬が指笛を数度鳴らす。
「よーし、お前ら、死ぬ気で守るぞ!」
青木の号令にジャガーズ全員が大声で応えた。
ジャガーズは沢田の奪った一点を守りきり、勝利。
控室に戻ると、そこには右脚をテーピングでぐるぐる巻きにした窪田がいた。
「クボさん、大丈夫なんですか?」
「ああ。大丈夫だ。来週のホンダ戦には間に合うだろうよ。いや、間に合わせてみせるさ」
窪田のサムズアップに全員が胸を撫で下ろした。
「よーし、てめぇら、とっととバスに乗れ。早島に帰るぞ」
選手たちは帰り支度を始める。
平瀬は沢田の肩を叩く。
肩を叩かれた沢田が振り向くと、既に平瀬は自分の帰り支度をはじめていた。




