<EP_054> 解けた魔法
「♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘♪大分の皆様、こんにちは、早島の誇り、ジャガーズ早島で〜す。♪ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪本日は、JFL第二八節。ジャガーズ早島対ヴェルスパ大分にご来場いただき、誠にありがとうございます。♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘♪現在、我がジャガーズは首位。ヴェルスパ大分も四位となっております。♪ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪JFLの最終盤。昇格を賭けた大一番となっております。皆様の熱い応援で、この熱戦を盛り上げてまいりましょう……」
ジェイリーススタジアムに停められたジャガーズの痛バスが合成音声を奏でていく。
リーグ最終盤の一戦を見ようと数多くの人が集まってきていた。
前節の二七節では、沢田と窪田を欠いたジャガーズは健闘したものの敗れており、二位のホンダFCとの勝ち点は一点。
負ければ首位陥落もあり得る大事な一戦であったが、沢田も窪田も復帰し、万全に近い形で臨むことができた。
サロメチールの臭いが充満する控室で沢田は膝を揺らしながら座っていた。
「サワ、怪我のほうは大丈夫か?」
窪田が沢田の肩を叩く。
「ええ。大丈夫ですよ」
「俺もお前も先週は休んじまったからな。今日は取り返さないとな」
「はい」
窪田を見上げる沢田の目は小刻みに揺れていた。
「よーし、てめぇら、今日のヴェルスパ大分は赤い温泉って意味らしい。ヤツらを血の池地獄に沈めてやれ!」
「押忍!」
平瀬の相変わらずの檄を背に選手たちはピッチへと飛び出していった。
試合開始のホイッスルが鳴ると、勝ち点の欲しい双方は序盤から激しい攻防を繰り返していく。
しかし、ジャガーズの攻撃は、どこかいつもと違っていた。
攻撃の起点となる沢田にボールを集めていくが、今まで見られていた華麗なドリブル突破は見られず、すぐに窪田や猿島にボールを預けてしまう。
(怪我の影響か?)
早島の練習場に作られたパブリックビューイング会場で見守っていた迫水やサポーターたちも沢田のキレの無さに気づき始める。
「チッ、魔法が解けちまったか……」
ただ一人、ベンチで見ていた平瀬は舌打ちとともに苦虫を噛み潰していた。
スコアレスドローのまま前半が終了。
控室に戻ると、ベンチに座る沢田に青木が声をかける。
「おい、サワ、どうした?いつもみたいに切り込んでいけ。後ろは気にするな。俺たちがバッチリ守るからよ」
「は、はい……」
青木の言葉に沢田は力なく答える。
「沢田さん、もっと走らせてくれて大丈夫ですよ。俺がブッチぎってみせますよ」
「あ、ああ……わかった」
足を叩きながら笑顔で言ってくる猿島に答えるが、沢田の瞳は揺れ続けたままだった。
「よーし、皆、行くぞ、後半は逆転して早島に戻るぞ!」
「おおっ!」
青木の言葉に選手たちがピッチへと戻っていく。
最後に重い腰を上げた沢田が続こうとすると、窪田が沢田の肩を掴んだ。
「サワ。お前は早島の王なんだ。王様ってのは前を向いているもんだ。もっと、前向いて胸を張れ」
「は、はい」
窪田は沢田の胸を拳で軽く叩くと、そのままピッチへと駆け出していった。




