<EP_053> 価値の証明
ジャガーズ売却のニュースが公開された翌日、迫水は早島商工会議所に呼び出されていた。
応接室で待っていると、井納が入ってくる。
迫水が立ち上がり、頭を下げる。
井納は山陽新聞を机に投げ出す。そこには「ジャガーズ売却」という文字が踊っていた。
「迫水くん、アンタ、知っとったんかの?」
「申し訳ございません」
井納の言葉に迫水は深く頭を下げた。
「キミは、売却されることを知ってて、日本紡績への意趣返しのためにワイらを利用したんかの?」
井納の更なる質問に迫水は頭を下げたまま、両膝の上で拳を握りしめた。
「まぁ、いい」
井納は林の記事が載ったサッカー雑誌を机に放り投げた。
「アンタ、戦っとったんじゃな……」
頭を下げたままの迫水に井納は静かに語りかける。
「おそらく、キミがこの街に来た時には売却の話は決まっておったんじゃろな」
ネームプレートが小さな音で答えていく。
「キミが売却を知らんのじゃったら、今までのGMと同じように、テキトーにチームを運営しとったじゃろうからな。でも、キミは違った。そんな格好をしてまで、駆けずり回り、ワイらを巻き込んでジャガーズを認めさせようとした。それは、チームの価値を認めさせたかったのと違うか?」
井納は立ち上がった。
「そして、キミの思惑通り、誰も見向きもしなかったジャガーズの名は早島の街をかけめぐり、早島だけじゃない、児島や玉島まで巻き込んだ一大ムーブメントに成長した。それは全て自分たちの価値を証明させたかったからじゃないかとワイは考える」
井納は迫水へと近づいていく。
「迫水くん。キミがどういうつもりで、ワイや東方レーヨンを利用したかは知らん。でもな、ワイはキミの侠気を気に入っとるよ」
井納は迫水の肩に手を置いた。
「大丈夫。今年いっぱいは早島商工会議所はジャガーズを応援し続けるよ。来年以降は新しいオーナーさんとの話し合い次第じゃな。迫水くん、最後まで戦え。少なくともワイはキミを応援しとるよ」
井納が迫水の肩を叩くと、ネームプレートがガチャガチャと鳴った。
井納は応接室を出ていこうとすると、振り向く。
「迫水くん、今度のホーム最終戦は応援に行くからの」
応接室のドアが閉まると、迫水の拳の上に水滴が一つ落ちた。
井納との会談を終え、クラブハウスに戻ると、迫水のスマホが鳴る。
スマホには見知らぬ番号が映し出されていた。
「はい、もしもし、迫水です……」
「迫水様、私、シルバーブルーメの日本代理店の進藤と申します。今、お時間、よろしいでしょうか」
「はい。少し場所を変えますので、少々お待ちください」
迫水はスマホを持ったまま応接室へ入り鍵をかける。
ネームプレートがカタカタと鳴った。
「それで、お話というのは何でしょうか?」
「そう固くならないでください。今日は、ご挨拶程度のものですから」
言葉を絞り出す迫水に進藤は気軽に話しかける。
「そちらは現在リーグ最終盤ですからね。詳しい話はリーグの行方が決まってからということに致しましょう。ただ……」
「ただ?」
進藤の言葉に、迫水の喉がゴクリと動いた。
「シルバーブルーメは、現在Jリーグへクラブライセンスの発行を申請しており、通りそうだということだけはお伝えしておきます」
「では!」
「シルバーブルーメはジャガーズの優勝を期待しております。では、頑張ってください」
電話の切れたスマホを握りしめ、両手を何度も振るとネームプレートがガチャガチャと騒がしい音を立てた。




