<EP_052> 転籍
「GM!大変です!」
デスクで頭を抱えながらパソコンを見ていると、京子が駆け寄ってくる。
「どうした?」
「今、ネットにこんな記事が!」
「銭ゲバGMの正体を探る!Jリーグの理想など、クソ喰らえ。とにかく金を持って来い!本誌記者に暴言」という文字が踊っていた。
内容は、この前のインタビューが、かなり歪曲されて書かれており、その中の迫水は、金にがめつくJリーグの構想を理想と吐き捨てる傲慢な人物として書かれている。
「随分と嫌われたものだな」
迫水が記事を面白そうな顔で見ていると、京子が頬を膨らませる。
「酷すぎますよ。ちゃんと抗議しましょう」
「いや、無駄だ。気にするな」
「でも……これじゃ、GMが……」
「いいんだ。この記事を読めば、選手たちは俺という悪徳GMに無理やり働かされてるって思うだろう。そうすりゃ同情が集まってくれるはずさ。前も言ったが、選手を守ってやるのがフロントの仕事さ。こんな悪役なら喜んで引き受けるよ。ほら、こんな記事は無視してとっとと仕事に戻れ」
京子を席に戻し、ネット記事を改めて読む。
「金の亡者ねぇ……ま、間違っちゃいないか」
迫水がネームプレートを指で弾くと、ネームプレートがガチャガチャと音を立てた。
「迫水、これはいったいどういうことだ」
林の記事がネットに載った翌日、迫水は本社へ呼び出されていた。
常務室に入ると、デスクの前にプリントアウトされた記事が放り出される。
「ブン屋さんは、いい加減なことを書くものですなぁ」
投げ出され、床に落ちた紙を拾いつつ、デスクに戻す。
「貴様は、ジャガーズを何だと思っているのだ!」
「常務。こんなネット記事が話題になるということは、ジャガーズは既に全国区の知名度があるということです。特に、中国地方ではジャガーズが話題に上らない日はございません。ジャガーズは日本紡績の広告塔でもありますので、その役目は十分に果たしていると思いますが……」
「ふざけるな。こんな目立ち方を日本紡績は望んでおらん!」
迫水の飄々とした様子に常務は声を荒げた。
「迫水。貴様に転籍を命じる。本日をもって、ジャガーズに正式に転籍してもらう」
「かしこまりました。その転籍。謹んでお受けいたします」
新しい紙が迫水の前へ滑らされ、一礼すると、転籍辞令書へサインをし判子を押す。
「ふん、せいぜい、好きにするんだな」
常務の言葉を聞きながら、迫水は部屋を後にした。
休憩所でコーヒーを啜りながら、大手町のビル街を眺める。
「よう、迫水。来てたのか」
内田が以前に会った時と同じ笑みを浮かべて近づいてきた。
「ああ。正式な転籍命令を受けたよ。ここに来るのも、あとは決算報告の時だけだな」
「そうか。また同期が減っちまったぜ」
「お前もやるか?」
迫水が両手でスーツの襟を掴むとネームプレートがカチャリと音を立てる。
「御冗談。俺にはそんなピエロみたいなことはできねぇよ」
「ハハ、そうだな」
「で、どうするんだ?実家で農家でもするのか?」
「さぁな。まだシルバーブルーメからの接触も無いしな。何も決まってないよ」
「そうか……」
「じゃ、俺は帰るよ。内田、いろいろ世話になったな」
ゴミ箱にカップを捨て、内田に背中越しに手を振ると、迫水は本社を後にした。
新幹線でネットを確認していると、「日本紡績、ジャガーズをシルバーブルーメへ売却」という記事がネットに出ていた。
(ついに来たか……)
トンネルに入り、窓にはパソコンをひたすら睨みつける迫水が映っていた。




