<EP_051> ウチはサッカーチーム
「岡山ダービー。ファジアーノが制する。ジャガーズがあわやジャイアントキリング!」
翌日の中国新聞と山陽新聞には岡山ダービーの結果が一面を飾る。
駅前に立つ迫水の元には、多くの人が「次は勝ってくださいね」と温かい言葉を掛け続けた。
「GM、おかえりなさい。また貰ってきたんですか?」
「ああ、今度はチーズインコロッケだそうだ」
袋を抱えて戻ってきた迫水に京子が声をかけてくる。
「あの……サワくんは大丈夫なんですか?」
「ああ。監督には伝えたが、沢田は第二八節には戻ってこれるらしい」
「良かったぁ」
「SNSでも、『沢田は大丈夫なのか?』って話題なんですよ。後で公式に出しておきますね」
京子は♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘♪と鼻歌まじりに休憩室に向かった。
迫水が仕事をしていると、スマホが鳴る。
「はい、迫水です。……これはこれは、高田工務店様。いつもお世話になっております。……ええ、おかげさまで順調ですよ……え?良いバルブ会社を知らないか?……高田様、ウチはサッカーチームですよ」
電話の言葉に迫水は自分のスーツを見回した。
「……そうですねぇ、関根商事様が、なにやら面白い会社を見つけたとおっしゃってましたね……え?今日の午後ですか?ええ、空いていますが。……はい、かしこまりました。お待ちしております」
電話は途切れた。
その日の午後、高田工務店の社長がクラブハウスを訪ねてくる。
「迫水くん、ちょいと寄らして貰ったで」
高田社長を応接室に招き入れ、世間話をしていると、関根商事の調達部長が訪ねてきたと京子が伝えてきた。
そのまま、応接室に通す。
「おお、高田社長、これはこれは奇遇ですな」
「おや、関根さんとこの坪井部長。あなたもサッカー好きとは知りませんでしたな」
二人の間に空虚な言葉が交わされていくのを、引きつった笑顔で迫水は聞いていた。
「で、では、私は仕事がございますので……。どうぞ、ごゆっくり歓談していってください」
「なんじゃ、迫水くんも交えて、サッカー談義をしたかったんじゃがなぁ」
「ハハハ……失礼いたします」
高田社長の言葉に乾いた笑いで応え、応接室を出ていく。
(冗談じゃねぇ……こんなとこにいてたまるか……)
「いいか、お前ら。応接室には近づくな」
事務所に逃げ帰り迫水が言うと、スタッフ全員が真顔で頷いた。
数日後、高田工務店と関根商事より百万円の謎の寄付金がジャガーズに振り込まれた。
「なんだこりゃ?フランス語か?」
数日後、メールをチェックしていると、何やら良くわからない言葉のメールを見つける。
送り主は海外のようだった。
メールを本社の海外事業部の知り合いに転送し、電話をかける。
「郡司か?なんだ、このメール?」
「この前話した、ジャンからのメールみたいだな。是非、話がしたいって感じで書いてあるよ」
「そうか。できれば日本語で話したいところだが、せめて英語でメールを送ってくれるように頼みたい」
「わかった。俺から言っておくよ」
この頃の迫水は、本社の伝手を使って海外の下部リーグと接触を図っていた。
シルバーブルーメがジャガーズをどう扱うつもりかは知らないが、海外とのパイプを持っておくことは、強みに思えた。
戦う選手が数年で総入れ替えになってしまっては、いくらチームが地域に根づいたとしても、応援するファンは根付かない。
ジャガーズで活躍すればJリーグを経由せずに海外へ羽ばたけるということにもなり、Jリーグへの選手の流出や若手注目株の獲得にも有利に働くと思ったからだ。
翌日から、迫水のパソコンには英語でのメールが頻繁に届き、翻訳アプリを使いながら、頭を抱えつつ読むこととなった。




