<EP_050> 早島まで走れ
後半が始まると、ファジアーノの猛攻が始まった。
青木や鷹野がゴール前で身体を張って必死に守っていく。
前線の沢田や窪田もプレスを必死にかけていくが、圧倒的な支配率にファジアーノ優勢で試合は進んでいった。
後半一七分、青木がクリアしたボールが沢田に渡る。
近くにいた猿島にパスを出して相手の脇をすり抜けようとした時だった。
沢田の身体が大きく前へ弾け飛び、膝を押さえて蹲る。
「サワ!」
窪田が駆け寄り、猿島がサイドへボールを蹴り込んだ。
蹲ったまま動けない沢田に窪田は担架を要求する。
「サワ、大丈夫か」
「大丈夫ですよ……ちゃんと戻ってきます」
苦しげに言う沢田に青木が怒鳴った。
「バカ野郎!お前が戻るピッチは今日じゃねぇ。お前抜きでJ3には上がれないだろが!」
「すいません、キャプテン……」
「心配すんな。お前がいなくても、俺たちだけで一点ぐらいは取ってやるよ」
「お願いします」
青木の手を握ると、沢田は担架に運ばれてピッチ外へと出されていった。
「あーあ、時間稼ぎは止めて貰えねぇかな……」
沢田の担架を見送るジャガーズにファジアーノの選手が小さく呟いた。
「なんだと、テメェ!」
「止めてください、クボさん」
窪田が言った相手の胸ぐらを掴む。猿島が間に入って必死に引き剥がした。
それを見ていた審判がホイッスルを吹くと窪田へイエローカードを出した。
舌打ちとともに窪田はその場を離れる。
試合が再開される。
突如として、絶対的な王を失ったジャガーズ選手の顔は一様に暗かった。
ジャガーズは窪田を中盤に下げ、猿島のワントップにすると、必死に守り続けた。
相手のシュートミスにも助けられ、同点のまま迎えた、後半三九分、窪田のタックルで相手選手が倒れると、窪田に二枚目のイエローカードが出されてしまう。
その後も青木を中心として粘り強く守っていくが、絶対の王と精神的支柱を失ったジャガーズは、ついに力尽き、後半のアディショナルタイムで逆転のゴールを奪われ、敗北した。
控室に入ってきた選手たちに窪田は頭を下げる。
「すまん、みんな。俺の軽率な行動で負けてしまった」
「クボさんのせいじゃないですよ。あそこで止めてくれなきゃ、点は取られてました。負けたのは俺たち全員のミスです」
頭を下げたまま動かないでいる窪田に全員が肩を叩いた。
「その通りだ。今日の負けはお前ら全員のミスだ。負けは負けだ。お前ら、全員、早島まで走って帰れ」
一連の行動を微笑みつつ見ていた平瀬だったが、一通り終わると、腕を組んで不適な笑みを浮かべて言い放つ。
「押忍!」との言葉を残し、選手たちは外へと飛び出していく。
動けないでいる窪田の肩を叩く。
「ほら、お前も行け。ベテランだからって特別扱いはしねぇぞ」
「はい!」
窪田も目を拭うと外へと駆け出していった。
JFE晴れの国スタジアムから、早島のクラブハウスまでは約一五キロ。
試合終了後の選手たちにとっては長い道のりである。
夕暮れの岡山を選手たちが走っていく。
通りすがる街の人からは「次は勝てよ」や「頑張れ」などの声がかけられる。
選手たちのユニフォームは汗と泥で汚れてはいるが、声援に笑顔で応えていく。
「おい、猿島、お前、さっきから飛ばしすぎだ。後半まで体力が持たねぇぞ」
青木が先頭を走る猿島へと声をかけていく。
青江のイオンを過ぎた頃、先頭を走る猿島が足を止める。
「あれは……」
そこには、一台のラッピングバスがハザードを点滅させて停まっている。
歩道には迫水が立っていた。
「皆、乗れ」
選手全員が乗ったことを確認するとバスは走り出す。
「ふん、『GMが選手を壊すな』ってうるさいからよ。優しいGM様に感謝するんだな」
平瀬は選手たちから顔を逸らしながら、吐き捨てる。
「皆、今日はお疲れさん。リーグ戦に備えて、今日はゆっくり休んでくれ。」
「GM、サワは大丈夫なんですか?」
迫水の言葉に青木が話しかけてくる。
「ああ、沢田の怪我は大したことないらしい。第二八節には戻ってこれるらしい」
バスの張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
「てめぇら、来週はサワも窪田もいねぇからな。それで負けたなんて言わせねぇぞ。明後日から練習するからな。覚悟しとけ!」
「はい!」
平瀬の声に勢い良く返事をする選手たちに、ネームプレートがカランと応えた。




