<EP_048> プロの条件
「迫水さん、あなたはプロスポーツというものをどうお考えですか?」
林はボールペンを激しくノックさせ、一度呼吸を整え、質問を変えてきた。
「『プロスポーツとは何か』ですか……興行です」
「ほぉ、興行ですか」
迫水の答えに林は興味深そうな顔を浮かべ、続きを促してくる。
「ええ。サッカーに限らず、野球にせよバスケにしろプロスポーツというのは全て興行です。興行というからには観客を集めなければなりません。そして、観客を魅せて金を稼がなければなりません。そして、プロというからには観客から金を集める必要があります」
「ふむ……」
「林さん、あなたはプロの記者ですよね?」
「え?ええ……一応は」
「では、何故”プロ”と言い切れるんです?」
「そりゃ、これで飯を食ってますからね」
林は逆に問いかけられ、戸惑いながらもそう答えた。
「そうです。プロというからには自分の食い扶持を稼がなければなりません。逆に言えば、自分の食い扶持を稼げない人間はプロを名乗ってはいけないのです。そして、興行主である私たちは預かっている選手を食わせてやる責任がある。だから、こんな格好をしてるんです」
迫水がスーツの襟を掴むと、ネームプレートがカチャカチャと鳴った。
「つまり、プロを名乗るには自分の食い扶持を稼げと?」
「そうです。あなたは『夢を与えるのがプロ』とおっしゃった。あなたは何故、プロの記者になろうと思ったのです?記者に憧れた理由は何です?他人に夢を与えるにはプロスポーツ選手である必要はありません。違いますか?」
レコーダーの動く微かな音だけが応接室に響いた。
「ありがたいことに、私たちジャガーズは、今季ここまでで、ホーム十四戦で約四万五千人のお客様に来ていただいて、グッズ収入やスポンサー収入を含めれば一億円近い額を稼ぐことができました。無論、これだけで選手たちやスタッフを食べさせることはできませんが、それでも、この稼いだ額が私たちのプロとしての価値なんですよ」
「稼いだ額こそがプロの価値と?」
「そうです。夢で腹は膨れません。チームの存続も難しい。私は、選手たちの明日を買うために稼いでいるんです。『夢や希望を言うなら金を持って来い、このスットコドッコイ!』と私は言いたいですね」
迫水の言葉に林はニヤリと笑うとレコーダーを止めた。
「迫水さん、お話は良く分かりました。本日はありがとうございました」
「林さん、何を書こうと自由です。ヒールには慣れてます。あと、最後に、『最終戦のチケットの残りはあと僅か』って入れておいてくださいね」
そそくさと応接室を後にしようとする林に声を掛けると、「わかりましたよ」と短い返事が返ってきた。




