<EP_045> 笑顔の裏
JFL第二三節。練習場に急遽作られたPV会場には多くのサポーターが集まっていた。
「いやぁ、随分と集まりましたね」
相手は沖縄SVであるため、早島に残っていた大槻が話しかけてくる。
「こんなに集まるんだったら、もっと大きなところが良かったんじゃないですか?」
「いや、これで十分だよ。スタッフも沖縄に行ってるから足りないしね」
PVに集まったジャガーズサポーターを見て、迫水は目を細めた。
入ってきた高級車から二十代の若者と一人の老人が降りてくる。
「東郷様、お待ちしておりました」
東方レーヨン会長の東郷であった。
若者は大槻に案内され、観覧席へ行く。
迫水は東郷を連れてクラブハウスへと入っていった。
「東郷様、本日はご来場くださいまして、ありがとうございます。井納様は既にお待ちでございます」
応接室に入ると、急遽入れたモニターがあり、既に井納が座っていた。
東郷が入ってくると、井納は立ち上がり、席を勧める。
「いやぁ、東郷会長がジャガーズファンとは知りませんでしたな」
「孫に影響されてな。井納会長のお誘いなら来ないわけにはいかないじゃろ」
重鎮二人は笑い合うが、その目は全く笑っていなかった。
(……こんなとこ、居たくねぇ……)
二人の老人が放つ威圧感に迫水は気圧されてしまう。
「それでは、私は会場の案内もございますので、後はゆっくりとご観覧ください」
そそくさと出ていこうとした迫水を井納が呼び止める。
「迫水くん、今日はありがとうな」
「いえ、ジャガーズGMとして当然のことをしたまででございます」
迫水は逃げるように応接室を後にした。
PV会場に戻り、大槻を呼び寄せる。
「いいか、大槻。クラブハウスから、二人が出てくるまで絶対に近づくな。絶対にだ。いいな」
あまりの迫力に大槻はカクカクと首を振った。
試合は、ジャガーズと沖縄SVの双方が引き気味で、大した見どころもないまま、後半に窪田が得たPKを沢田が決め、一対ゼロでジャガーズの勝利というなんとも締まらない試合であった。
しかし、東郷と井納は満面の笑みでクラブハウスから出てくる。
「いやぁ、迫水くん。素晴らしい試合だったね」
「ああ、あの沢田くんのシュートは素晴らしかった」
「ありがとうございます」
引きつった顔で迫水が答えていると、二人の老人は去っていく。
(あの応接室で何が話されていたのか、知りたくもねぇ……)
去りゆく二台の高級車を見ながら、膝から力が抜けそうになるのを感じ、ネームプレートが風もないのにカタカタと音を立てた。
後日、テーマパークの制服リニューアルの入札が児島紡績と東方レーヨンの二社に決まったというニュースがネットに流れた。




