<EP_044> 共通言語はサッカー
ジャガーズは第二十二節を終え、一二勝六敗四引き分けと首位を走ってはいるが、予断を許さない状況になっていた。
この頃になると、相手チームは速攻によるカウンターを警戒し、引き気味に守ることが増え、沢田へのマークも厳しくなっていた。
そんな中、青木を中心としたジャガーズディフェンス陣は粘り強く守り続けていく。
ファールスレスレのラフプレーも厭わず、ゴール前を憤怒の形相で守る青木は、「早島の地黄八幡」などとネットでは言われ始めていた。
井納が急にクラブハウスを訪ねてきた。
「井納会長、ようこそおいでくださいました」
迫水は立ち上がって出迎え、そのまま応接室へと案内する。
カチャカチャと音を立てて前に座る迫水を井納は目を細めて見てくる。
「迫水くん、そのスーツ、さらに増えてるのぉ」
この頃になると、迫水のネームプレートは更に増え、肩口から袖口まで埋まっていた。
「おかげさまで。商工会議所の皆様もスポンサーになっていただけて、ネームプレートを小さい物に変えようかと思ってるぐらいですよ」
急な来訪に警戒しながらも、迫水は笑って返していく。
そのまま、最近のジャガーズのことなど、世間話をしていった。
「さて、迫水くん、キミは本社とはどれぐらい関係があるのかね?」
世間話がある程度終わると、井納は鋭い目で迫水を見てきた。
「そうですね……本社に友人は何人かおりますが、こちらに来てからは、ほぼ全く」
「そうか……」
「迫水くん、キミも本社の噂ぐらいは聞いとるじゃろ?」
井納から探るように出た言葉に迫水の身が硬くなる。
「その……今度のテーマパークの制服受注に関する噂を何か聞いとらんか?」
「さぁ?その手の話は全く……」
迫水も、関東にある大型テーマパークの制服リニューアルに関する入札が行われることぐらいは知っていた。
井納は、早島の商工会議所の会長ではあるが、児島に本社を置く児島紡績の会長でもある。
入札には、日本紡績も参加予定であり、そのことは迫水は知っていた。
しかし、それに関する本社の情報は、迫水のような本社を出た人間には聞こえてくるはずも無い。
井納の目的が情報収集だと知り、迫水の緊張は少し揺らいだ。
「井納会長。その入札には東方レーヨンさんも参加される予定ですよね」
東方レーヨンもまた、児島を本拠とした紡績大手である。
「さすがじゃな……」
迫水の言葉に、今度は井納が身構えた。
「でしたら、東方レーヨンの会長様とお話をされてはいかがです?」
「ふむ……しかしなぁ……」
顎に手を当てて考え込む井納に、迫水は胸のネームプレートをトントンと叩いた。
「東方レーヨン会長様のお孫様がサッカーが大好きだそうで、ウチのスポンサーにもなっていただいているんですよ」
「ほぉ……東方レーヨンもジャガーズファンじゃったか……」
井納が興味津々で覗き込んでくる。
「今度、ウチのグラウンドでパブリックビューイングを開催する予定なんです。もしかしたら、会長様もいらっしゃるかもしれませんね。なんなら、優待券をお送りいたしましょう」
迫水がニヤリと笑うと、井納も笑みを返してきた。
「いや、優待券ではなく、招待券にしてくれ。金はワイが払おう」
「かしこまりました。東方レーヨン様には井納会長からの招待とお伝えいたしましょう」
「うむ。よろしく頼む。後、老人に外での観戦は酷じゃ。この応接室で見れるようにしてくれんかの?」
「かしこまりました。画面は小さくなりますが、ここで観戦できるようにしておきましょう」
「すまんな」
井納は頬を緩めつつクラブハウスを出ていった。
翌日、迫水は東方レーヨンへ電話をかける。
東郷会長に繋いで欲しいと言うと、すぐに繋いでくれた。
「東郷様、いつもお世話になっております。ジャガーズ早島GMの迫水でございます」
「ふむ、孫が世話になっておるようじゃな。何の要件じゃ?」
「はい。実は、次の日曜日に私どもの練習場にてPVを開催することとなりまして、つきましては東郷様にも来ていただきたいと思いまして、ご連絡を差し上げました」
「そういうことなら孫に頼め」
「いえ、児島紡績の井納会長から東郷様へ招待券を贈って欲しいとのご依頼がございましたので、東郷様に直接ご連絡させていただきました」
「ほぉ……井納さんからの招待とな……」
「はい。井納様は応接室での観戦をご希望されておりまして、お二人でサッカー観戦しながら、ご歓談していただくのは悪い話ではないと思いますが……」
「……わかった。井納さんの招待なら受けんわけにはいかんけぇの」
「では、お待ちしております」
電話を切ると迫水は大きく息を吐いた。




