<EP_041> 控え選手
ジャガーズは一二節を終わり、八勝二敗二引き分けと二戦連続で勝利を逃していた。
試合翌日の練習場では、試合に出なかった選手たちの自主練習をしていた。
左サイドコーナー付近から鷹野が中央へハイボールを蹴り出すと、待ち構えていた工藤がヘディングでゴールを決める。
「ナイスゴール!」
鷹野の言葉に工藤の顔から笑みがこぼれた。
工藤は二八歳。昨季までは納谷とともにツートップを組んでいたが、納谷の解雇と猿島の台頭、窪田の加入によりベンチに下がっていることが多かった。
「ナイスボール、鷹野」
「いや、少しボールが流れた。工藤、もう一回だ」
「わかった」
同級生ということもあり、鷹野と工藤は納得がいくまで練習を続けていた。
「いらっしゃい、鷹野ちゃん、工藤ちゃん。練習は終わり?」
練習を切り上げた鷹野と工藤は馴染みの定食屋で遅い昼食をとる。
「早く、二人の活躍を直に見たいわぁ」
「次こそは見せてみせますよ」
「期待してるわ」
店の女将と話をしながら昼食を食べ始めた。
「鷹野、お前のクロス精度が上がってきたんだし、次ぐらいからは使って貰えるんじゃないか?」
「どうだろうなぁ」
「でも、良いよな。鷹野は足も速いから、今のカウンター重視なら使って貰えそうだし」
「お前だって、前線のポストプレイなら悪くないだろ」
「でも、窪田さんがいるからなぁ……」
工藤は長身な見た目と違って、足はけして早くない。
同じ長身で足技も使える窪田の存在はどうしても無視できなかった。
「そんなこと言うなよ。納谷もいなくなって、数少ない同期なんだしさ。監督も言ってたろ、持ち味を活かせって」
「俺の持ち味なぁ……」
鷹野の言葉に工藤は首を捻ってしまう。
二人で考え込んでいると、女将が二人のテーブルにとんかつを置きにくる。
「あれ?頼んでないですよ?」
鷹野の言葉に女将は笑顔で答える。
「サービスよ。ここ二試合勝ってないでしょ。二人には精をつけて勝って欲しいって、ウチの人がね」
「応援ありがとうございます。遠慮なくいただきます」
「ありがとうございます。次節は勝ってみせますよ」
二人が大声で礼を述べると、奥の厨房から、店主が笑顔で頭を下げてきた。
定食屋を出ると、工藤は鷹野に話しかける。
「なぁ、鷹野、もう少し、練習につきあってくれないか?少し食べすぎたしよ」
「ああ、いいぜ」
「考えたんだけどよ、俺が窪田さんに勝てるとしたら、高さだけだ。それに、俺が出るとしたら、試合後半のパワープレイになった時だと思うんだ。コーナー付近からのセットプレーの練習がしたい。お前もクロスの練習になるだろ?」
「ああ、わかったぜ」
二人は軽く走り出し、練習場へと戻っていく。
コーナー付近の様々な角度から鷹野がハイボールを上げ、工藤が頭で合わせていった。
練習を続ける二人を夕焼けが赤く染めていた。
翌日の午後は紅白戦のミニゲームとなった。
鷹野と工藤はともに控え組に組み込まれる。
主力組には沢田、猿島、窪田、青木とレギュラーメンバーが名を連ねている。
「いいか、てめぇら、いつも言ってることだが、自分の持ち味を活かせ。主力組は沢田を活かし、利用しろ。控え組は自分の持ち味を活かして動け。持ち味を最大限に活かすことがお前らのレギュラーへの道だ」
鷹野と工藤は口を固く結んで、平瀬の檄を聞いていた。
紅白戦では控え組は沢田と猿島のスピードに翻弄されていく。
鷹野の左サイドは右サイドの猿島とマッチアップするため、猿島へ圧をかけていくが、スピードで振り切られてしまう。
工藤も前線からプレスをかけていこうとするが、鈍足のため沢田には追いつけず、ゴール前の競り合いでも青木に倒されることが多かった。
主力組の優勢でゲームは進み、控え組の二点ビハインドでゲームも終盤となった時であった。
沢田のパスが猿島へと伸びると、猿島のトラップが長くなり、ボールが前に転がる。
鷹野はボールへと突進し、素早くセンターサークル付近の味方MFにボールを出すと、そのまま左サイドを駆け上がっていった。
鷹野の動きを見たMFは、そのまま左サイド奥へとボールを蹴り込む。
鷹野はそのままボールへと全力で駆けていく。
背後から、猿島が追ってくるのがわかった。
鷹野もけして遅くはないが、猿島の走力は異次元だ。
助走をつけていても距離が詰まっていくのを鷹野は感じた。
鷹野がボールに追いつく頃には、既に視界の端に猿島の姿が見て取れた。
鷹野は足を踏ん張ると、その場で切り返す。
眼の前を猿島が通り過ぎるのが見え、ゴール前で青木と競り合う工藤が見えた。
(頼む、工藤!)
通り過ぎた猿島が戻って前を塞ぐ直前、鷹野は高いクロスボールを蹴り込んだ。
(任せろ、鷹野!)
ゴール前で待ち受けていた工藤が高く跳ぶ。
青木が跳ばせないように身体を寄せてくるが、構わずに跳んだ。
GKも飛び出してくるが、その伸ばした手と同じ位置に工藤の頭があった。
工藤が頭を振り抜くが、キーパーの拳に当たり、ボールはゴールラインを割っていく。
「くそっ!」
工藤は膝を叩いて悔しがり、鷹野を見る。鷹野はサムズアップで応えていた。
控え組のコーナーキックでゲームが再開される。
主力組もほぼ全員がゴール前に集結しており、先程のヘディングを警戒してか、工藤には窪田と青木の二人が競りかけていた。
ショートコーナーから鷹野にボールが渡り、再びハイボールが供給される。
頭一つ抜けた工藤がボールを叩きつけるが、キーパーの正面に飛んでしまい、そこで試合終了となった。
(また、カードが増えやがったぜ)
紅白戦を見守っていた平瀬は薄く唇を上げた。




