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<EP_040> ジャガーズロール

「いらっしゃい、迫水さん。どうでした?」

その日の夜、迫水は再びキキを訪れ、昼間の顛末を聞かせた。


「なるほどねぇ……なかなかに難しいもんだ」

「大将、せっかく作ってくれたのに申し訳ない」

腕を組んで首を捻る大将に迫水は詫びる。

「いいんですよ。私もままかり鮨の新しい形ってのを知りましたからね」

笑う大将を見て、迫水はますます申し訳なく思った。


「でね、迫水さんに言われて、私も年甲斐もなく創作料理に挑戦してみたんですよ。これなんですけど、食べて貰えませんか?」

大将はカウンターに厚焼き玉子を出してくる。良く見れば黄色い野菜が見えていた。

迫水が食べると、玉子のふんわりとした甘い食感にシャキシャキとした食感が混ざり、同時にニラの匂いが鼻に抜けていく。

ニラ独特の香りも優しい匂いで味の邪魔をしない。

「大将、これはいったい?」

「黄ニラのニラ玉ですよ。普通のニラ玉よりもクセが無いから美味いでしょ。黄ニラも岡山の特産品ですからね」

「ああ、美味いよ。ただ、ニラ玉特有のガツンとした感じは無いかな。これだと、ちょっと普通の厚焼き玉子に近いかなぁ。でも、これならニラが苦手な人でも食べられそうだね」

「……そうですよね。黄ニラの上品な味と匂いがニラ玉にすると勝てないんですよね」

迫水と大将はカウンター越しに二人で首を捻ってしまった。


翌日、クラブハウスで仕事をしている迫水に下川がやってくる。

「GM、板野ベーカリーからテナントを出させて欲しいと申し込まれたんですが」

「そうか……テナントスペースに空きはあるから大丈夫じゃないか。真野、どうなってる?」

「大丈夫だと思いますよ。板野さんのところなら人気もありますし、こちらからお願いしたいぐらいですね。玉子ロールがとっても美味しいんですよね」

京子がうっとりとした顔を見せてくる。

「わかった。下川、テナントの話はOKと伝えてくれ」

「わかりました」

下川はそのままクラブハウスを出ていく。

(玉子ロール……?)

京子の言葉が迫水の頭に引っかかった。


数日後、事務所に板野ベーカリーから、ロールパンに厚焼玉子が挟んである、厚焼玉子ロールが届けられた。

厚焼玉子には中に黒い斑点があり、ソーセージと一緒に挟んであるものもあった。

職員を集めて試食会を開く。

食べると、厚焼き玉子の甘い味と同時にニラの匂いが鼻に抜けた。

「なんですか、これ?」

「黄ニラを使ったニラ玉ロールさ。黄ニラも岡山の特産品だからな」

「迫水さんに言われたので、玉子に入れる前に少し炙ってニラ感を出してみました」

京子の疑問に、迫水と店主が答える。

「黄色に黒い模様が入ってるから、俺たちジャガーズにピッタリだろ。これなら片手で食べられるし、SNS映えも期待できると思うんだが、どうだ?」

「良いですね。ホットドッグはサッカーグルメの定番ですし」

「これならニラが苦手な人でも食べられそうだ。匂いも少ないし」

職員たちにも好評であった。


「ジャガーズロール」と名付けられたその一品は、鮮やかな色合いとホットドッグの食べやすさが評判を呼び、早島運動場の新名物となる。

試合当日、コンコースに漂う香ばしいパンの匂いと、黄色いロールを片手にスタンドへと急ぐサポーターたち。その光景を目にした迫水は、思わず拳を握りしめた。


一方、居酒屋キキでは、大将の提案した『ままかりのたたき寿司』が、地元の酒飲みの間で「これぞ新しい岡山の味だ」と噂を呼び、看板メニューへと昇格した。

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