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<EP_037> 公式があたおか

迫水がクラブハウスに戻ると、京子がパソコンの前で悩んでいた。

「どうした、真野?」

「いえ、ジャガーズの公式チャンネルの再生数が伸びないんですよねぇ……」

「公式チャンネル?そんなものあったのか?」

「ありますよぉ。再生数が全然伸びてませんけど……」

京子に教えられ、迫水も自席でパソコンを開いてみる。

そこには、試合告知や、試合結果、試合のダイジェストなどが文字とともに流れているだけだった。

「これは、伸びんな……」

「そうなんですよねぇ……」

迫水も京子と同じく首を捻ってしまった。


「おらっ!てめぇら、声出せ、声。キンタマついてんのか!」

二人が事務所で首を捻っていると、外から平瀬の胴間声が聞こえてくる。

迫水は指を鳴らす。

「ウチには良いコンテンツがあるじゃないか」

「え?」

京子がキョトンとした顔をすると、迫水がニッと笑う。

その笑いに、京子は眉を寄せた。


練習終了後、監督室に撮影機材を持ち込み、モニターの前に平瀬と迫水が座った。

「おい、真野、回せ」

迫水の合図で京子は撮影をスタートさせる。

「はい。ジャガーズ公式チャンネル、始まりました」

「おい、迫水。なんなんだよ、こっちは疲れてんだよ」

「まぁまぁ、監督、少しの時間ですから」

明らかに不機嫌な平瀬をなだめながら迫水は撮影を続行していく。

「今日は、先日の試合を平瀬監督に解説していただきながら、見ていこうと思っています」

笑顔で喋る迫水とは対照的に、平瀬はカメラを全く意識せずに腕を組んで憮然とした態度を崩さなかった。


「監督、先日の試合はお見事でした」

「あ?あんなの勝って当然だろ。(ピー音)が出なかっただけマシだったけどな」

物騒な言葉を吐きながら平瀬は笑う。

「ちょ、ちょっと、監督。もう少しマイルドに……」

「いいじゃねぇか、真野。どうせ編集で消せるんだしよ。ほら続けるぞ」

画面外から京子が慌てた声を出す京子に笑いながら迫水が声をかける。

京子は両手で顔を覆った。


「では、試合のダイジェストを見ながら解説していただきましょう」

迫水がモニターを点けると、画面内では青木が相手選手と接触して倒してしまい、相手にフリーキックを与えていた。

「このプレーをどうご覧になられますか?」

「ん?ああ、ここか。青木もだらしねぇよな。どうせファウルするなら(ピー音)してやれば良かったんだよ。骨ごといけ、骨ごと」

「確かに、この後、失点してますからねぇ。これは査定に加えないと」

「まぁ、帰ってきてから、ダッシュ十本やらせたけどな」

大声で笑い合う二人を見ながら、カメラの後ろで京子は頭を抱えた。


沢田が倒された場面が映し出される。

「これはダメですよね。審判が、ちゃんとイエローを出さないと」

「ん?この審判(ピー音)だろ?昔から下手くそなんだよ、コイツ。今度、ウチの主審になったら、相手選手ごと削っておくよ」

「さすが監督ですねぇ。……そういえば監督、次の対戦相手のフロント、裏で(ピー音)万の裏金を(ピー音)に流して選手を(ピー音)したって噂、本当ですか?」

「おい、迫水てめぇ、それはガチの(ピー音)な案件だろ!(ピー音)に引っかかるわ!」

「いいじゃないですか、どうせ編集で消せますよ」

再び笑いあう二人を見て、画面外の京子が俯きながら、両手で大きくバツを見せる。

「ん?どうした真野」

「京子、何してんだ?俺と迫水の反省会なんて、いつもこんなだぞ?」

大笑いしている二人をみて、京子は頭を抱えてうずくまった。


撮影が終わり、撮影機材を片付けながら京子は恨めしそうに迫水を見る。

「GM、これ、ホントに使うんですか?」

「当たり前だろ。撮れ高多すぎだろ」

「もう、ピー音だらけで使い物になりませんよ」

「おい、京子。ギャラは出るのか?」

「出るわけないでしょ!途中から、二人とも、試合に全く関係ない話ばっかりしだすし!」

京子は眉を吊り上げたまま叫び、荒々しい足取りで監督室を出ていく。

残された平瀬と迫水は、両手を上げて肩をすくめた。


翌日、ジャガーズ公式チャンネルが更新される。

内容は、試合解説ではあるのだが、ピー音だらけで、最早、何を言ってるのかすらわからず、モールス信号のようだった。


コメント欄は「コイツらヤバすぎる」「誰か、止めろ」「真野ちゃん、かわいそう……」「良く考えろ。この動画を編集してるのは彼女だ」といった言葉で埋め尽くされていた。

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