表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/65

<EP_036> 開幕

ついにJFLが開幕した。


「♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘♪こんにちは、早島の誇り、ジャガーズ早島で〜す。♪ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪本日は、JFL第三節、ジャガーズ早島対いわてグルージャ盛岡に来場くださりまして、まことにありがとうございます。♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘♪現在、ジャガーズは二連勝中。本日はホーム開幕戦となっております。♪ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪皆様の熱い応援で、ぜひ私たちジャガーズに勝利をお願いいたします……」


早島運動場の入口で、ジャガーズのバスが合成音声を大音量で流していく。

合成音声をバックに続々とサポーターが集まってきた。

その中にはジャガーズ応援Tシャツを着た者も少なくない。

ジャガーズ応援Tシャツは既にサードロットを数え、今もスタジアム内の売店で売り出されている。


ジャガーズの選手たちがピッチでアップをしていると、スタジアムが人で埋まっていく。

ゴール裏はレモンイエローに染まり、その他の席も、売店で買ったTシャツを羽織る人が増え、スタジアムがレモンイエローに染まる。


「あれ、納谷じゃねぇか?」

選手の一人がゴール裏に集まったサポーターの前で声を張り上げる、納谷の姿を見つける。

背中には大きく納谷被服興業のロゴが描かれていた。


「鷹野ちゃ〜ん!今日はこっちなんだね〜。頑張って〜」

ベンチ入りとなった鷹野にスタンドから大きな声がかけられる。

見ると、ジャガーズ応援Tシャツを着た定食屋の女将さんが手を振っていた。

鷹野が拳を突き出すと、女将さんも拳を突き返した。


「♪ジャガーズ ジャガーズ 大健闘♪ ♪ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪……」

納谷が音頭をとると、ゴール裏サポーターから、風俗店の広報バスを想起させる音楽が流れだす。

気の抜けた応援歌に窪田は思わず吹き出してしまう。

「もうちょっとマシな応援歌は無かったのかねぇ?」

レモンイエローに染まった応援団を前に立ち尽くす青木の脇に立つ。

青木は目を閉じて、上を向いて動かないでいた。

「こんなに……こんなに、人が来てくれた……」

青木の漏らした言葉に窪田は肩を叩く。

「これだけの人を前にだらしねぇ姿は見せられねぇぞ。頼むぜ、キャプテン」

「はいっ!」

青木は目をぬぐうと、大応援団をまっすぐ見つめた。


アップを終え、控室に戻ってきた選手たちの顔は一様に赤く染まっていた。

「てめぇら、驚いたか?今日の入場者数は、ここまでで、四千人ちょいだとよ。偉くなったもんだなぁ」

平瀬の言葉に選手たちが力強い声で応える。

「おい、青木。キャプテンなんだから、なにか言いやがれ」

平瀬に促され、青木が一歩前に出る。

「俺たちのやってきたことは無駄じゃなかった……俺たちは無価値なんかじゃない……早島の想いを背負っているんだ……絶対、絶対に……勝つぞ!」

「おおっ!」

言葉を詰まらせながらも、断言した青木の言葉に全員が声を上げた。

その声は、数ヶ月前とは全く違っていた。


試合開始のホイッスルが鳴ると、スタジアムは歓声に包まれる。

相手のグルージャはJ3経験もある強敵で、ジャガーズから見れば格上。

グルージャに再三攻め込まれつつも、青木を中心としたディフェンス陣の粘り強い守備で得点を許さない。


前半三四分、味方がクリアしたボールを青木が受け取ると、沢田へとパスが渡った。

そのままドリブルで相手陣内へと切り込んでいく。

ドリブルはどんどん加速し、トップスピードへと達する。

グルージャの選手が止めようと身体を寄せた瞬間、沢田の姿は煙のように消え、次の瞬間にはグルージャの選手を置き去りにしていた。

一人、二人、三人と寄せてくる選手を躱していく。

三人の選手が囲もうかと言う瞬間、沢田の脚から前線にいた窪田へとボールが伸びる。

グルージャ選手が窪田に寄って動きを封じようとした時、窪田は伸びてきたパスに意表をつくスルーを見せた。

転々とするボールへ、影が飛び込む。

猿島だ。

猿島へとボールが渡ったのを確認して、窪田が猿島の裏へと走り込もうと動き、相手ディフェンダーが動いた。

猿島が中央へ折り返すと、そこにはトップスピードで飛び込んでくる沢田がいた。

沢田がボールをダイレクトに振り抜くと、ボールはゴールネットを揺らし、ジャガーズサポーターの大歓声が響き渡った。


「♪ジャガーズ ジャガーズ 大勝利♪」

ジャガーズサポーターの大歓喜の中、前半が終了した。


後半に入ると、沢田と猿島のスピードを警戒したグルージャ側が少し引き気味になり、試合は膠着していく。

それでも、格上のグルージャにボールを支配され、ジャガーズはその攻撃を粘り強く跳ね返していった。


後半四〇分に差し掛かろうとした時、ジャガーズベンチから指笛が数回吹かれた。

それを合図に、ジャガーズはボールを中央周辺から自陣で回し始める。

攻撃をするのを止め、ひたすらに時間を稼ぐ、遅延行為の始まりであった。

相手サポーターはおろか、ジャガーズサポーターからもブーイングが鳴らされる。

グルージャも沢田と猿島による速攻を警戒して、思い切った攻撃ができない。

試合終了のホイッスルが鳴らされ、ジャガーズは三連勝を飾ることになった。


試合後の勝利監督インタビューにて「俺たちは勝ちにいっただけだ。自陣でボールを回しているんだ。相手が勝ちたいなら、ホンキで奪いにくれば良いんだよ。それだけだ」。そう嘯く平瀬の言葉に、SNSは大炎上した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ