<EP_033> 納谷被服興業
「ただいま」
暗い顔をしたまま納谷が自宅へ戻ると、両親が出迎えてくれた。
「おかえり、どうじゃった?」
「ああ、快勝じゃったよ……」
「そうかい。ご飯できとるよ」
暗い顔をして告げる息子に母親はそれ以上聞かず、台所へ戻る。
納谷はそのまま、晩酌をしている父親の前へと座った。
「なあ、親父。俺、明日から工場を手伝ってもええか?」
納谷の言葉に父親は晩酌の手を止める。
「なんじゃ?サッカーは諦めたんか?見返してやると言っとったじゃろうが」
「うん、そのつもりじゃったけど、俺には無理じゃ。あそこは、俺がおる場所じゃなかったけぇ……」
「そか……」
父親は黙ってテーブルの上のコップを納谷の前に置くと、酒を注いだ。
「明日から、バリバリ働いて貰うけぇの。しっかり働け」
「ああ。わかっとる」
二人が言葉少なに酌み交わしていると母親が夕食を持って戻ってくる。
「でも、やっぱし、そんなに厳しいんじゃなぁ」
「ああ。俺の代わりに入った窪田さんが凄いんじゃ。おふくろも知りよるじゃろ。窪田敏充さん。アラフォーなのに、バリバリ動いて、相手を翻弄するんじゃ。ああいう人じゃなきゃ、やっていけん世界なんじゃとつくづく思ったよ」
納谷は眼の前で見た窪田のプレーを目を輝かせて語る。
「まるでB反じゃの」
父親がぼそりと呟いた。
「B反?」
「規格外品のことじゃ。この世界で食ってくつもりなら、それぐらい覚えておけ」
「うん……」
繊維工場の息子だというのに、全く知らないでいたことを納谷は恥じた。
「おまぁのことじゃな。製品にはなれず、工場の片隅で捨てられるのを待つだけの布じゃ」
父親の言葉に納谷はうつむいてしまう。
「じゃが、布は布じゃ。もう一度染め上げれば製品にすることもできる。ただ、今はその使い道が無いだけじゃ。お前もしっかり染め直してやるけぇの、覚悟しとけ」
「ああ、わかったよ」
「ほら、あったかいうちに食べね」
母親に促され納谷は食べ始める。
「でも、残念じゃなぁ。基樹が活躍しよったら、ウチにも仕事回して貰えたかもしれんが」
母親がそう漏らすと父親が反論する。
「無理じゃろうな。あそこは日本紡績さんのチームじゃ。ウチらみたいな小さな工場に回してくれる仕事なんてないじゃろな」
「そう……最近は町中でも盛り上がっとるみたいだし、ウチにもおこぼれがないかのぉ。勝手にジャガーズ応援グッズとか作ってみよる?」
「はは、訴えられて割に合わんが。それに、町全体を染め上げるまでにはいってないけぇの」
(B反、応援グッズ、町を染める……)
両親の会話を聞きながら、納谷は考えてしまう。
「なぁ、親父、ちょっと考えがあるんじゃ」
納谷は考えたことを話し始めた。




