<EP_028> サッカーが大嫌いな男
翌日、迫水は愛媛へと向かった。
応接室に入ると、明らかに不機嫌そうな窪田敏充が座っている。
迫水の異形に窪田は目を見開くが、すぐに元に戻り、顔を背けた。
「やぁ、窪田くん。時間を取ってしまって申し訳ないね。私はこういう者だ」
対面に座ると名刺を滑らせる。
窪田は差し出された名刺を見ようともしない。
迫水はそんな窪田を見つめたまま、動かずにいた。
「で、JFLのGMが俺に何のようだ?」
沈黙に耐えられなくなった窪田が口を開く。
「もちろん、キミを獲得するために来たんだよ。FC今治に打診したら『本人の意向を確認してくれ』と言われてね」
「ふん、なら答えはノーだ。俺は窪田敏充だ。JFLになんて行けるかよ」
「やれやれ、散々な言われようだね」
「はん、アンタらの噂は聞いてるぜ。俺を客寄せパンダに使おうってんだろ?アンタのそのスーツに俺の顔でも貼るつもりかい?」
背け続ける窪田の顔を、迫水は興味深そうに覗き込んだ。
「窪田くん……キミはサッカーが好きかい?」
「あ?サッカーが好きか?嫌いだね。大嫌いだ」
窪田は答えを吐き捨てた。
「ふむ。嫌いか……なら、なぜサッカー選手を続けているんだい?」
「ふん、最近、サッカーの野郎がおちょくってきやがるからさ。舐められっぱなしで終われねぇんだよ」
窪田は苛立ちを隠さない。
「それはキミが試合に出られないからかい?ベンチを温めてるだけで、サッカーを見返せるのかい?」
「アンタには関係ないことだ。俺は客寄せパンダになんてなるつもりはねぇよ。とっとと帰れ」
「平瀬隆造がキミを欲しいと言っている」
立ち上がろうとした窪田に迫水は指を組んで告げた。
平瀬と窪田が大学生の時にコーチと選手の関係だったことは既に掴んでいた。
窪田は平瀬の元で頭角を顕し、そのまま日本代表へと上り詰めていったのだ。
「平瀬さんが?」
「ああ。是非ともキミを獲得してくれと打診された。だから、私は来たんだ。平瀬監督からの伝言だ。『こいつを見せれば、俺が何を求めているのか、窪田なら分かる』と言っていた」
平瀬の名前に足を止めた窪田へ迫水はタブレットを取り出す。
画面には、沢田と猿島のシーンが映っていた。
鮮やかな速攻による得点の場面と、その後のカウンターの失敗シーンが繰り返される。
窪田の瞳孔がわずかに開き、直後に口端が非対称に吊り上がった。
「なるほどな……おもしれぇ、行ってやろうじゃねぇか、岡山によ」
「ありがとう」
迫水が立ち上がり、右手を差し出すと、窪田も立ち上がって握り返してきた。
正式契約は後日ということでFC今治を出た。
迫水はスマホを取り出す。
「……先輩。窪田の意思は取り付けました。ただ、困ったことが起きまして……詳しくは早島に戻ってから話します」
迫水は目頭を指で揉み、顔をしかめながら告げた。




