<EP_026> サッカー選手
「でも、ウチのチームは大丈夫なんですかね……」
酒も少し進んだところで、納谷が言葉を漏らす。
「大丈夫って?」
ジョッキを呷りつつ工藤が聞く。
「この前、親父が言ってたんですけど、ウチのチームに売却の噂があるって」
「マヂかよ……!」
納谷の言葉に、工藤と鷹野は持っていたグラスを思わず止める。
「……おい、嘘だろ? それ、いつの話だ?」
鷹野がかすれた声を絞り出す。
「お、俺も親父から聞いただけだ……。でも、あのラッピングバスとか、妙に必死な広報活動を見てると、なんか……本当なんじゃねぇかって思えてきて……」
周りの席からは、週末の学生街らしい明るい笑い声や乾杯の音が聞こえてくる。だが、この四人の座敷席だけが、隔離されたように冷たい静寂が包みこんでいた。
「売却かぁ……その時はどうなるんだろ」
「やっぱりクビかねぇ……JFLのチームなんて、良くて縮小、悪けりゃ解散だろ」
「新チームになるにしても、俺たちのほとんどは解雇だろうな」
鷹野の暗い呟きに、工藤と納谷が返していく。
「納谷はいいよな。クビになったら実家の工場を継ぐんだろ?」
「どうだろ?ウチも景気は良くないからなぁ」
「その時は、俺も雇ってもらうかな」
自嘲気味にグラスを傾ける仲間たちを見ながら、青木はぐっと奥歯を噛み締めた。
「なるほどな……」
静まり返った卓の隅で、青木が低い声で呟く。
「……キャプテン?」
「すべて辻褄が合う。あのおっさんが、なんで急に監督を替えて、あんな奇抜なことをやり出したのか」
青木はグッと拳を握りしめ、青筋を浮かべる。
「あのおっさんにしてみれば、どうせチームはどこかに買い叩かれる。だったら、少しでも高く売りつけるために、俺たちをピエロにして話題を作ってるのさ。おれたちは、あのオヤジの『高値で売るための道具』でしかなかったんだよ……!」
テーブルのジョッキが、青木の怒りでわずかに震えた。
「ふざけやがって……!」
「どうするんです?」
「そのうち、GMとは話をするさ。だが、俺たちはサッカー選手だ。」
怒気を孕んだ青木の言葉に全員が頷く。
「悔しいが、今はGMに言われたように勝って価値を出すしかねぇ」
「優勝すれば売却は無くなりますかね?」
「わからねぇ。でも、俺たちにできることはそれぐらいしかねぇ。ふざけるなよ、黙って売却なんてさせてたまるか!」
青木はジャガーズのポスターを睨み続けた。




