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<EP_014> 価値ゼロ円の天才

簡単な手続きを済ませ、本格的な契約は後日ということとなり平瀬はクラブハウスを後にした。

「送っていく」という迫水の申し出を「勝手知ったる道だ。迷いはしねぇよ」と断ってきた。

「お前ら!二月のキャンプまでに身体を作っておけよ。鍛え直してやる!」

平瀬がクラブハウスを出ると、胴間声がクラブハウス内まで響き渡った。


「GM、本当に大丈夫なんでしょうか?」

窓の外で不安げな表情を浮かべる選手たちを横目に京子が話しかけてくる。

「大丈夫さ。先輩も言ってたろ?今の俺たちの手札はボロボロ。ジョーカーの一枚ぐらい抱えておかないと勝負にならないさ」

「はぁ……」

よくわからない例えに京子は半信半疑の顔しかできなかった。


「さて、沢田の連絡先を調べないとな」

自席に戻った迫水はファイルをめくりはじめる。

「GM、沢田くんを獲得なさるんですね」

ファイルを繰る迫水に、一転して鼻息を荒くして京子が覗き込んでくる。

「そのつもりだが、なんだ?そんなにスゴい選手なのか?」

「そりゃあ、私たちの間じゃ、沢田くんはアイドルですよ。もう、カッコ良くて、プレーも華麗で……」

京子はたちまちうっとりとした表情を浮かべる。

「そうか。なら是非とも獲得しないとな」

素っ気なく答えると、目星をつけた迫水はスマホを取り出し、うっとりしたままの京子に指示をだしていく。

「真野、選手たちの宣材用の写真とロゴを大量に用意しといてくれ。あと、平瀬監督の就任会見の手続きをしろ。とっとと仕事に戻れ」

迫水に言われ、京子が自席に戻ると、他の部下に指示をだしていく。

「おい、大槻。ウチのマイクロバスのラッピングにかかる費用の見積もりと、施工業者を探しておけ」

そう言うと、迫水はスマホを手に取った。


連絡先を手に入れると、迫水は沢田のプレーを確認しようと動画を漁ってみる。

少し検索すると、見つけることができた。

「なんだ、この選手?」

一人の選手に目が釘付けになる。

相手ディフェンダーを二人背負い、味方のパスを受ける。

そのパスは重力を無視したように足元へと収まった。

そのまま反転すると、ディフェンダーの間を、スルリと駆け抜けてしまう。

そのまま駆け上がると、ディフェンス陣が集まってきた。

囲まれると思った瞬間、針の穴を通すかのように鋭いパスが繰り出された。

そのままフォワードの選手が合わせるとボールはゴールに吸い込まれていった。

(これが沢田亮介……)

その後、大学時代の動画を何本か見てみるが、沢田は全ての動画で素晴らしい動きを見せていた。

豊かなスピードでピッチを駆け上がり、相手ディフェンダーを華麗にかわしていく。

かと思えば、空いたスペースにパスを繰り出し、そこに画面外から選手が飛び込んでくる。

視野の広さと得点感覚、華麗なドリブル。

どれをとっても一級品で、京子が夢中になるのも理解できた。

(コイツはモノが違う……)

仲間に揉みくちゃにされている沢田は光り輝いていた。


その後はJ2時代やJ3時代の動画を見てみるが、大学時代の輝きは失われ、気のないパスを出すだけの選手となっていた。

(こんな選手が復活できるのか?)

そんな考えが思い浮かぶが、大学時代のプレーが脳裏から離れなかった。

もし、大学時代の輝きが取り戻せるなら、これほどの選手を獲得しない理由は無かった。

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