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<EP_013> デッドマンズ・ハンド

三人はそのまま、クラブハウスを出る。

グラウンドでは選手たちが自主練を続けており、青木の檄だけが乾いた空気に響き渡っていた。

腕を組み、仁王立ちでグラウンドを見つめる平瀬の眉間に、みるみる深い皺が刻まれていく。

迫水は平瀬と並んでグラウンドを眺めており、京子は少し後ろから、怯えた目でおずおずと平瀬の顔を盗み見ていた。

しばらく、グラウンドを眺めていた平瀬が踵を返してクラブハウスへ戻っていくと、二人もついていった。


「ダメだ、ありゃ」

監督室に入ると、椅子に腰を下ろしてデスクに足を投げ出し、平瀬は言い放った。

「そんなにダメですか……?」

「ダメに決まってんだろ。何人か見どころありそうなヤツもいたが、全体的にダメだ。腐ってやがる」

おずおずと聞いてくる京子を見もせず、平瀬は頭の後ろで両手を組み椅子にふんぞり返る。

「おい、迫水。お前、こんなんで良く勝てなんて言ったな」

「どうしました?ハンドだけ見てフォールドなんてしませんよね?」

目線だけを呆れたような表情の迫水に移し、平瀬は吐き捨てた。

「完全に、デッドマンズ・ハンドじゃねぇか……おい、このチームの選手枠に空きはあるか?」

「ええと……現在は23人でして、一応、新監督の意向を反映できるように2つ枠を空けてます……」

明らかに不機嫌な平瀬に、尻すぼみになりながら京子は答えた。

「そうか……なら、一人獲得して欲しいヤツがいる」

京子の言葉を聞き、平瀬はデスクから足を降ろし、居ずまいを正して迫水へと向く。

「誰です?外国人とか言わないでくださいよ。金は無いんです。移籍金も払えるかわからない」

「大丈夫だ。そいつは今、俺と一緒のプーだ」

「誰です?」

平瀬の言葉に京子も興味を抱いたようだった。

「沢田亮介を獲得してもらいたい」


「沢田亮介?」

平瀬の告げた名前に心当たりがない迫水は首を傾げた。

「え?あの、沢田亮介ですか!?」

対照的に京子はその名前に興奮する。

「知ってるのか?」

「そりゃ、モチロンですよ。沢田亮介と言えば大学サッカーでは超有名でしたから。もう、スッゴくカッコ良くて、サッカー女子の間じゃ大人気だったんですよ」

京子は軽く頬を染め、うっとりと虚空を見つめていた。

「なんで、そんな有望選手がプーなんだ?真野と同じぐらいなら十分若いでしょ」

京子の反応を見ていると、当然疑問が湧いてしまう。

「怪我をしたのさ」

「怪我?」

平瀬の言葉に迫水は無意識に右脚を触っていた。

「沢田は鳴り物入りでJ1に入団したが、春のキャンプで怪我しちまったのさ。前十字靭帯損傷……結局、リハビリでルーキーイヤーに出場機会は無かった」

平瀬の言葉に、迫水の右脚が疼いた。

「怪我明けの二年目にJ2にレンタル移籍したんだけど、調子は上がらずに、そのまま解雇さ。三年目の昨季はJ3に拾われたけど、結局は一年で解雇。今は山梨の実家に戻ってるらしいぜ」

「……そんな選手が戦力になるんです?」

平瀬の説明に迫水は眉を潜めるが、平瀬は力強く断言した。

「なる。間違いなくなる。俺の見た限り、沢田の脚は錆びちゃいねぇ。俺が研ぎ直せば、天下の名刀に戻るはずだ。それに、オレには負けるが、なかなかのイケメンだからよ。そっちの嬢ちゃんみてぇな女子ファンも増えるぜ」

「わかりました。交渉はしてみましょう」

平瀬の言葉に迫水は頷いた。

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