第22話 襲撃
激しい振動と、大きな音で目が覚める。
「っ!」
目の前をリィが黒い風のように駆け、部屋を飛び出していく。
「あ、リィ、ちょっと待ってよ!」
追いかけて外へ出ると、澄んだ夜の空気が肺を満たした。
村が燃えている。風に乗って悲鳴が聞こえる。丘を登って一人の男がやってきた。
「出て来るんじゃない!隠れろ!爆弾っ……大砲だ!!誰かが村に大砲を打ち込んでる!!」
「ええっ!?」
と、夜闇に一つ、二つと小さな明かりが付き、暗い空に歪んだ弧を描く。
そのうちの一つが、こちらへ向けって落ちてくる。
「伏せろ!!」
そう叫んだリィは僕と男を引き寄せると、ものすごい力で押し下げてかがませ、自分の身体でかばった。
耳をつんざくような轟音と衝撃、爆風。……恐る恐る目を開くと、少し先の地面に大きな穴が空いていた。炎が巻き上げた風が焦げた肉の臭いを運ぶ。穴の周りには、バラバラの肉片が飛び散っていた。
「おぇっ……」
「この尖った耳……ゴブリン!夜襲だっ!!」
「……え、あ、これグレネードゴブリンってやつ!?こんな威力高いの!?」
「あれ!」
リィの指さす方を向くと、村の入り口の方に、炎の明かりを反射してきらきらと光る何かがいくつも動いている。
「剣……?冒険者……?」
「違う、ゴブリンの群れ!行くぞ、ハルト!」
「う、うん!」
丘を駆け下り、燃える家々と、悲鳴を上げて逃げ惑う村人たちの間を抜けて走る。
「ヒィィッ!くッ、来るなァッ!」
「ギャギギャギャッ!!!」
入り口には十数匹のゴブリンの群れが押し寄せており、それを見張り番が槍で懸命に追い返そうとしていた。だがついに槍を掴まれ、引き込まれて、倒れた所を袋叩きにされる。
「死ねッくそゴブリン!」
リィが群れに突っ込み、血飛沫をいくつも上げながら、ゴブリンたちの間を縫って見張り番のもとへ向かう。
「ハルト!」「う、うん!」
後からのこのこ付いていく。リィはかがんで見張り番の様子を見ていた。
「死んでる、治して!向こうのやつ倒してくる!」
「え、あ、うん!……うっ、か、顔がぐちゃぐちゃにされてる……」
動揺からコントロールが上手くいかず、かなりの魔力を無駄にしながら蘇生する。鈍く頭が痛んだ。
「……っ!!アあっ!!ああああああああ!」
ぴくんと身体を跳ねさせた見張りは、言葉にならない声で絶叫しながら暴れだす。
「し、しっかり!しっかりしてください!!」
「嫌だ!!!なんで、死にたくない……!!」
「あなたは生きてます!槍を持って、リィと一緒に戦ってください!」
「うう、ああっ、なんで……なんで……」
「だ、ダメだ、錯乱してる……」
後ろで物音がした。嫌な予感に振り向くと、二匹のゴブリンが茂みから出てくる。
「た、立ってください!ゴブリンが来ます、逃げないと!!」
「嘘だ……死にたくない………………」
「ううっ……こ、こうなったらっ!」
見張り番の槍を拾い、腰だめに構えて前へ一歩進む。
「やああああっ!!」
やけくその突撃は幸運にも、一匹の喉を貫いた。ゴブリンは血の泡を吹いて痙攣し、動かなくなる。
「ギギャギャギャ!!」
もう一体が怒り狂って剣を振り回しながら襲い掛かってくる。とっさに魔法の閃光で怯ませたが、死体から槍が抜けず、攻撃ができない。もたもたしているうちにゴブリンは視界を取り戻し、腕に向かって剣を振り下ろしてきた。槍から手を放してかわそうとするが、間に合わず深く切りつけられる。血が噴き出し、激痛が走った。足がもつれて倒れる。
「ひいっ……!」
怯える僕を見て、ゴブリンはにたりと笑う。
「ギャギィィィ!」
ゴブリンが武器を振りかざすのを見て、僕は思わず目をつぶった。
ヒュオオオオオ......!
凍てつく風が吹き抜け、頬にちりちりと冷気を感じた。
「.........?」
恐る恐る目を開けてみると、剣を振り上げたままの姿勢で、ゴブリンが凍っている。駆け寄ってきた先輩が、真っ青な顔で僕の身体を助け起こして言う。
「ハルトっ!血、血がっ……!は、早くポーションを……!」
動揺しながらローブの中を漁る先輩に言う。
「大丈夫です、今、自分で治すんで……」
「ああ、そ、そうだったな……君はヒーラーか……」
ハッとしたように先輩は言って、僕が傷を治すのを心配そうに見つめていた。
「先輩……遅いっすよ」
「すまない、眠っていた。……くそっ!君を守ると誓ったのにこのザマだ……!」
「先輩、僕のことより、向こうでまだリィが戦ってるんです!助けてあげてください!」
「……分かった、加勢する!」
二人がゴブリンを倒すまでの間、僕は苦労して槍を引き抜き、泣き続ける見張り番をなだめていた。
しばらくして戦闘の音がやみ、二人が戻ってくる。リィの外套と先輩のローブには、凍った血肉の欠片がこびりついていた。
「こっちはおわり」
「まだグレネードゴブリンを投げてるやつがいるはずっす!」
「それは私が吹っ飛ばしておいた。崖の上から投げているのが分かったから、崖ごとな」
「あ、そうなんすか。すご」
「一応この辺を見て回りたい。ハルト、明かりになって」
「了解っす」
「では、私は消火を手伝ってこよう」
僕たちは二手に分かれ、進み始めた。
・・・・・・
「まろーどの世界でも、ハルトやエイアくらいの年のやつが戦うことあるの」
二人で村の周りを見回っていると、リィが言う。
「ううん、全然そんなことない。僕たちは高校生だったから……朝から夕方まで勉強して、その後は夜まで部活……決められた趣味の活動をしてた」
「ふーん。つまんなそう」
「うん。つまんなかった」
じっと夜の闇を見つめながら、リィが呟く。
「エイア、素人じゃなかった」
「素人?なんの?」
「命の取り合い」
思わず彼女の方を見る。その横顔からは、何の表情も読み取れない。
「それ......どういうこと、リィ」
「わたしにもわからない。でも......エイアからヘンなにおいがする事と、繋がってる気がする」
「せ、先輩は......。先輩は、悪い人なんかじゃないよ」
「ん。わたしもそう思う。隠してることがあるなら、話したくないってこと。エイアが話したくなるまで待とう」
「......うん。先輩を信じてくれてありがとう、リィ」
「別に......」
歩みを進めると、村の裏手の崖に真新しい崖崩れの跡があった。
「これ、先輩が一人でやったのかな」
「ん。あっちの岩が凍ってる。そっちの隙間からゴブリンの腕が出てる」
「うわっ、ほんとだ……」
「……生き残ってるやつはいないみたい。戻ろう」
「了解」




