第20話 かしこいリィ様のゴブリン講座
「ようこそいらっしゃいました、冒険者ギルドの皆さま」
馬車から降りると、村長らしき老人が、何人かの村人たちを連れて歓迎してくれた。
「おう、オレサマがいらっしゃったぜェ!ゴブリンなんぞすぐぶっ飛ばしてやるから安心しなァ!」
ドンがそう言って、力強く胸を叩いてみせる。
「おお、なんと心強いお言葉……!近頃辺りの村々がゴブリンの群れに略奪されておりまして……この村もいつ襲われてもおかしくないという状況で、皆眠れぬ夜を過ごしておりました」
「馬車に乗って疲れている。休憩できる場所に案内していただけますか」
少し苛立ったように諏訪部が言うと、村長は慌てて動き出した。
「こ、これは失礼いたしました。すぐ私の家にご案内いたします……」
村の中を進んでいくと、井戸端で洗濯をしている女性たちに会釈されたり、遊んでいた子供たちに笑顔で手を振られたりした。
「なんか、めっちゃ歓迎されてるっすね」
「それだけ差し迫った状況だという事だろう」
「ん。ゴブリンに襲われた村は、畑も、家畜も、家もみんなめちゃくちゃになる」
「……もしかして、女の人がさらわれたりする?」
「やつらは縄張り意識が強い。他の種族を巣に入れたりしない」
「そっか、よかった……」
「人間を殺した後に首をちょんぎって、巣の飾りに使う事はある」
「あー、グロ方面なんだ……」
「なんだペプシ君、エロ方面を期待していたのか?」
「期待なんてしてないっすよ......捕まってる人がいるかどうかで、巣を攻める方法も変わるかなって思っただけです」
「本当かぁ~~?捕らわれの村娘を救って、しっぽりむふふな展開を期待してたんじゃないのか?」
「しっぽりむふふってなんすか……」
丘の上にある大きな家に案内され、部屋を割り振られる。まだ日は高いが、万全を期すために今日は準備に当て、明日の早朝巣の攻略へ向かう事になった。自分の部屋からリィと先輩のいる部屋に向かい、作戦を話し合う。
「リィ、巣を攻略するって、具体的には何をどうすればいいの?」
「そんなのも知らないのに、クエスト受けたの。ハルトはおばか」
「ペプシ君を馬鹿にしていいのは私だけだ。殺すぞ」
「先輩、殺す判定が緩すぎます。かしこいリィ様、どうぞ教えてください」
「ん、かしこいリィ様が教える。一番奥の、一番強いやつをぶったたけばいい」
「……それだけ?」
「ん」
「巣の中で、トラップや待ち伏せのたぐいはないのか?」
「そーいうのはない。あいつら、ちょーおばか。……あ、うんこ踏まないように気をつけろ」
「……う、うんち?」
「ん。あいつら、巣の中の適当なとこでうんこしてる」
先輩の顔がさっと青くなり、彼女は引きつった顔で首を振った。
「……冗談だろ。罠の方がまだマシだな」
「あと、ゴブリンにもだるいやつはいる。ホブはでかくて強い。レンジャーは弓、シャーマンは魔法。あと、グレネード。耳に火が付いたやつが走ってきたら逃げろ。腹の中に火薬が詰まってる」
「わかった、覚えとくね」
「……いや待てペプシ君。明らかに一つおかしいのが混ざってたろ」
「なにがっす?」
「グレネードゴブリンだ!リィ、本当はそんなものいないんだろう?」
「いるよ。人間の樽爆弾を見て真似したんだって」
「……樽の代わりに腹を、導火線の代わりに耳を使ったという事か?狂気の発明だな……」
「弱いやつが爆弾になる。やつらに優しさとかない」
「ふむ、侮れば足元を掬われかねんか……」
「ん。準備はしっかりしとけ」
リィはベッドの上にダガーや弓、矢を並べると、一つ一つ手入れし始めた。真似して荷物を確認してみると、先輩からもらった識別タグが出てきた。
「あ、忘れてた……」
「タグか。丁度いい、準備を済ませてしまおう」
先輩とリィにタグを渡し、魔力を込める。
「……光った。なんだこれ」
「魔法を使うとき、簡単に味方を見つけられるようになる道具……かな」
「ふーん。変な模様」
「先輩も使います?」
「では、2枚貰おう」
先輩はリィと僕にタグを貼り、魔力を込めた。
「……また光った。色が違う」
「僕のは白で、先輩のは紺色だね」
「エイアの方がかっこいい」
「フハハハ、勝った!」
「がーん、負けました。じゃ、他のパーティーにもタグを渡してきます」
「ペプシ君、終わったら村の入り口まで来てくれ」
「分かりました」
「何の用か聞かないのか?」
「どうでもいいです」
「なんだその言い草は」
「先輩と二人きりになれるなら、なんでもいいですから」
「む……そ、そうか。いい心がけだ、ペプシ君」
「エイア、頬が赤い。照れてるな、ひゅーひゅー」
「くっ……貴様の頬を真っ青にしてやったっていいんだぞ」
「アツアツカップル〜……むぐ!?」
「お前の口内を氷で満たした。しばらく黙っていろ」
「がりがりむぐむぐ……ん、冷たくてうまい。もっとくれ」
「噛み砕いて飲み込んだだと……!?」
この二人もすっかり打ち解けたなあ、と、その平和な様子を見て思った。
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