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チートヒーラーの僕、救った相手に惚れられてしまう件〜転移前から相思相愛の氷魔法使いと、ハーレムパーティーで魔石の陰謀を追う〜  作者: 黒倉ばくら
第一章 異世界と死体漁りの少女

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第2話 死んでいればよかったのに

「いった……」

頭を押さえながら起き上がる。息を吞む音がして、薄汚れたマントに身を包んだ誰かが後ずさった。フードを深くかぶっていて顔が見えず、男か女かさえ分からない。かなり大柄な体格だから、たぶん男だろう。

見回すと、辺りは夜の森だった。髪についた土で指が汚れているのに気付いた。とりあえず痛いと言ったけど、本当はどこもケガしていないらしいことも。

「あの……ここ、どこですかね」

薄気味悪い人だなと思いながら、恐る恐る声をかける。

返事はなかった。気まずい時間が流れる。

それにしても、一体何がどうなったんだろう。僕は学校の屋上から落ちたんだから、包帯でぐるぐる巻きになって病院で目覚めるのが自然だ。

「もしかして、あなたが僕を運んでくれたんですか?」

マントの男は少し高い声で、

「死んでいればよかったのに」とつぶやいて、こちらに背を向け歩き出した。

「あの、ちょっと待ってください。死んでればって、ひどくないですか、それ。僕、道分からないんで、街まで案内してくれません?」

ちょっとむかついた僕は追いかけて肩を掴んだ。その瞬間腕を掴み返され、体が宙に舞う。見事な一本背負いを決められた僕は地面に叩きつけられ、無様に空を見上げた。木々の隙間から二つの満月が見える。……二つ?

「がはっ……!ごほっごほっ……」

咳き込む僕をマントの男?が覗き込んできた。フードが外れ、中の顔があらわになる。褐色の肌にぼさぼさの髪、右頬に走る古傷の印象的な、野生味と威圧感を感じる相貌だった。ただ僕を見下ろす瞳は黒々としてつぶらで、なんだか大型犬のような愛らしさがある。

「お、女の子……?ぐえっ!ちょっと、何で踏むの……!?」

「チッ。……ササキー!生きてるのいたー!」

森に向かって彼女が叫ぶと、あいよーと返事が聞こえて、そちらから明かりを持った薄毛のおばさんがやってきた。

「はいはいはい。……うわっ、どうしたのリィちゃん、乱暴はダメだよ」

「暴れたから」

白々しくそんなことを言って、マントの女は僕から足をどけた。

「ああそうなの。転移後は結構あるからね、そういう事。……で、お兄さん大丈夫?アタシの言ってる事わかる?」

「うっす……」

おばさんはランタンのようなもので手元を照らしながら、片手で器用にカバンからノートを取り出し、なにやら読み上げ始めた。

「はい、あなたは元居た世界を離れ、ここ、トイボクスの世界にやってきました。元居た世界に戻る方法が発見されるまでの間、ティン王国の異世界省があなたのここでの住処、働き口等、手厚く支援いたしますので、ご安心下さい。ティンの民は、あなたの来訪を歓迎いたします」

「え……?」

「ごめんごめん、こんなこと言われてもわけわかんないよね?一応決まりだからさ、これ言うの。最近来る人は異世界転移したー、なんて言うわね。そういうの流行ってるんでしょ?ワカモノの間で」

「……アニメとか、ラノベとかのアレっすか?」

「そうそうそう。ちなみにアタシ金沢から来たんだけど、お兄さんは?」

「秋田っす」

「秋田ねえ。アタシいぶりがっこ好きだよ。チーズが入ってるやつ。ビールに合うんだあれが」

「ああ……はい。僕、金沢なら兼六園行ったことあるっす、家族で……」

「えっ、本当かい?しっぶいねえそりゃまた。あんなとこ何しに行ったの?」

「え……なんか炭酸の湧き水を見に行きたいってとーさんが……」

よく分からない会話を続けていると、不機嫌そうにマントの少女が割って入ってきて、おばさんに言う。

「ササキ、もう行っていい?今日はまだ死んでるやつ見つけてない」

「死んでるやつ……?」

「あっ、何でもないよ!なんでもないから!……ちょっとリィちゃん、そういう事、転移したての人の前で言わないでよ。ささっと書類書いちゃうから、ちょっと待ってて!」

佐々木はリィを慌てたように押しのけると、わざとらしい笑いを顔に張り付けながらこちらを向いた。

「ごめんね、お兄さんのサポートをするために個人情報を登録する必要があるんだけど、ちょっと答えてもらっていい?」

「いいですけど、死んでるってどういう……」

「あー、それは後で他の人に聞いた方がいいかもね……。ま、まず名前を教えてくれる?」

「……霧原晴人キリハラハルトです」

「ケガとかない?頭痛や、吐き気は?」

「ありません」

「そりゃあいい。持病や、服用してるクスリなんかは……」

・・・・・・

一通り質問に答えた後、何かの同意書にサインした。

「よし、それじゃ明日の午前中に、魔術学院で適性検査を受けてね。さっき説明したけど、この世界に転移してきた人には、必ず高い魔法の適性が生まれるの。魔力が暴走して死んじゃったーって人もいるから、晴人君自身の安全の為にも、必ず検査を受けてね。それに、検査の結果が良ければ、貴族の私兵や学院の特待生になれて、がっぱがっぽのうっはうは、モッテモテだよ」

「はあ……」

ま、アタシはこれだったんだけどね、と言って、佐々木は明かりを持ち上げて見せた。……よく見るとそれはランタンではなく、丸い形の光そのものだった。

「本当に、違う世界なんだ……」

「それでね、本当ならハルト君には簡易宿泊所に泊まってもらうんだけど、今夜はもう満員なんだよね……」

「いつもはもっと死んでるもんね」

「リィ……!その話はやめなさいってば」

「終わったでしょ。早くお金ちょうだい」

「はいはいわかりました。どうぞ。はい、こっちはハルト君。金貨一枚……大体一万円くらいの価値よ。露店とかでぼったくられないように注意してね……転移したての人は狙われやすいから」

異国のコインを受け取り、ポケットにしまう。同じく金貨を受け取り、立ち去ろうとしたリィの両肩を背伸びして掴んで、佐々木が言った。

「じゃハルト君、今夜はリィちゃんの家に泊まってくれるかい」

「は?嫌」リィが答えた。

「宿泊所がいっぱいの時は、第一発見者が責任を持つってことになってるんだよ」

「知らない」

「そんなこと言わないでよ~。ハルト君がかわいそうだろ?」

「関係ない。ササキんちに泊めればいい」

「リィちゃん。引き受けた仕事には、最後まで責任を持つべきだよ」

「…………チッ」

リィはギロっと僕を見下ろすと、軽く体を振ってササキの腕を振り払い、付いてきて、と言った。

「ハルト君、ちょっと待って。……色々混乱してるところに、こんなことを頼むのは申し訳ないんだけどさ……できればリィちゃんの友達になってくれないかい?あの子いつも一人でさ、おばさん心配なんだ。ちょっと不器用だけど、いい子だから……」

「……ちょっと?」

「だいぶ、かな。アハハハ……」

「まあ……考えときます」

・・・・・・

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