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チートヒーラーの僕、救った相手に惚れられてしまう件〜転移前から相思相愛の氷魔法使いと、ハーレムパーティーで魔石の陰謀を追う〜  作者: 黒倉ばくら
第一章 異世界と死体漁りの少女

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第1話 君の脳はペプシの香りがする

「君の脳はペプシの香りがする」

学校の図書室で課題を解いていた僕が振り向くと、藤原先輩が僕の髪を嗅いでいた。

僕の通っている高校で彼女……藤原永愛フジワラエイアを知らない人はいなかった。頭も顔も信じられないほどいいのだが、極めて変人で奇行が目立つため、近寄るべきではない人物として有名だった。

「……あの、えっ?」

「ペプシの香りがする」

焦点の合わない眼が僕を見つめた。恐怖に襲われた僕は慌てて立ち上がり、荷物をまとめる。

僕の椅子が立てた大きな音に少し眉をひそめて、藤原先輩は隣の席に座り、本を開いた。

『たんぽぽ娘』

ちらりと見えた表紙には、そう書いてあった。先輩の雰囲気とのギャップに驚き、思わずつぶやいてしまう。

「たんぽぽ……」

「ん?この本知ってるの?」

「あ、いや……タイトルがかわいいなと」

しまった、と思ったがもう遅い。逃げるのを諦め、もう少し話す事にする。

「君は変わらない愛を信じるか?」

「え?」

「表題の短編の主題だよ。かつて春の妖精のように美しく愛らしかった女が若さを失い、身にまとっていた恋という神秘の鎧も剥がれ落ち、ただの醜く生々しい、むき出しの中年になっても、君はソレを愛し続けることができるか?」

「うーん……できる、と思いますけど」

「なぜ?」

「どうせいろいろ劣化するのはこっちも同じだし……一緒にいて楽なら、それ以上望まなくてよくないですか?」

「それが君の愛の定義か?」

「え?まあ……」

「……ふうむ」

座ったまま僕を見上げる目の焦点が合った。らんらんと輝くその瞳は美しく、それでいて獲物を見つけた鷹のような獰猛さがあった。

「合格だ、ペプシ君。明日もここへ来るように」

一方的にそう言うと、彼女は僕への興味を完全に失い、本の世界へと入っていった。

・・・・・・

二回目に会った時、僕は藤原先輩に醤油をぶっかけられた。使い切りのミニボトルを握り締めたまま、彼女はじっとこちらの反応をうかがっていた。

「しょっぱ……」

「ペプシと醤油は親戚だろう?色がそっくりだから」

「意味わかんないっすよ……」

僕はトイレに行って髪と顔を洗った後、彼女の隣の醤油臭い席に座った。

「どうして戻ってきたんだ?君はバカなのか?」

「……先輩、こういう時はまず、謝るべきじゃないんすか」

「………………。ごめん」

「はい」

それから藤原先輩は一度も僕を傷付けるような事はしなくなった。こちらから頼めば勉強を教えてくれるし、たまに、愛や、他人を受け入れることについてのよくわからない質問をしてきたりした。僕はわからないなりに真面目に答え、その度に彼女は目を輝かせて満足げにうなずいた。

『空っぽなんだよ、だから満たされたいと願うんだ』と、いつも藤原先輩は言った。顔も頭も良く、強烈な個性を持つ彼女のどこが空っぽなのか僕には分からなかった。ただ、先輩は自分には何もないと強く信じていて、それに苦しんでいる事は分かった。

・・・・・・

授業中、真っ青な顔をした教師が乱入してきて、ほとんど無理やり僕を連れ出した。屋上で藤原先輩が呼んでいるらしい。くれぐれも刺激せず、時間を稼げと言われた。

屋上には数人の教師がいた。フェンスの向こうに先輩がいたので、のそのそ乗り越えて、いつものように隣に座った。

「さむいですね」

「うん。でも、いい景色だと思わないか、ペプシ君」

「まあ……そっすね」

「見慣れた街の遠景ではあるが、死ぬ前に見るものとして相応しい」

「……なんで」

「深い理由はないんだ。単に、空の器に割れる時が来たというだけ。あるいは、心の内にある虚空に吸い込まれて消える時が」

「読んだ本の感想、また聞かせてくださいよ。あと、色んな質問とか。あれ、結構気に入ってるんですよ、僕」

「私もだ、ペプシ君。だから、君を呼んだ」

「それに、もう少しで期末だし。先輩に教えて貰わないと、数学やばいです」

「ごめん。でも、もう全部決めたんだ。もう全部、終わったことなんだよ」

「……なんすかそれ。なんか、腹立つんですけど」

「ああいや勘違いしないでくれよ。君は無力だったわけじゃない、ただ出会うのが遅かっただけだ。私はペプシベビーに生まれたかった」

「意味わかりませんよ……」

「生まれ変わったら君の娘になるからよろしく」

「何もよろしくないですよ……死なないで下さいって」

困り果てた僕の顔を見て藤原先輩はケラケラ笑った。

突然、太い腕が彼女の肩を掴む。いつのまにか近づいていた教師が、フェンスから身を乗り出していた。藤原先輩は激しく身をよじり、フェンスにぶつかって大きな音が鳴った。

引き上げろ、と遠くの教師が怒鳴る。

「触るな、下衆が!」

ものすごい勢いで教師の腕を振り払った彼女が、大きく体勢を崩して虚空へ向けて倒れていく。勝手に身体が動き、思い切り彼女を押して屋上の方へ戻した。

ぐらりと視界が傾き、先輩が遠くなっていく。訳がわからないまま猛烈な風に包まれ、それからものすごい衝撃があって、なにもわからなくなった。

・・・・・・


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