第16話 裏切りのハンバーグ
別の日、魔術学院へ先輩に会いに行く。部屋に入ると、机に向かっていた先輩はこちらを見た。
「お、暇人が来た。今日こそは私の下僕として共に暮らすことを決意したかね?」
そんなことを言いながらペンを放り投げて立ち上がり、嬉しそうにこちらへ歩いてくる。
「そのことなんっすけど……僕、リィとパーティーを組んで、冒険者ギルドに登録しました」
「……………そうか」
「す、すんません」
「君は私のものじゃない。君のものだ。だから、謝るな」
「でも、たくさん会いに来るんで!」
「当然だ、私も会いに行くぞ。ああそうだ、今日行こう。登録祝いにうまいものを作ってくれ。リィと私で食べてやる」
「いいっすけど……そこは料理を作ってくれるとこじゃないんっすか?」
「料理なんかできない」
「すがすがしいっすね」
「誰にでも得意不得意というものはある。それを互いに補い合うのが人間というものだ」
「確かに……たまにはいいこと言うじゃないっすか」
「まるで私が戯言ばかり口にする傾奇者であるかのような言い草だな。えっぐいセクハラしてやろうか」
「いいですよ。してください」「な、なに……?」
「しないんっす?じゃあ僕がしちゃいます」
先輩を抱きしめて顔を胸にこすりつける。先輩のにおいがした。
「ん~……脳みそがびりびりします。幸せ……」
「全く……君には勝てないな」
「先輩の自爆ですよ?」
「お説ごもっとも……」
お互いの暖かさとにおいをじっくり確認し合ったあと、先輩が言う。
「で、もうクエストは受けたのか?」
「うす。ゴブリンの巣を攻略するっす」
「……それは、二人パーティーでどうにかなるものなのか?」
「あ、僕らの他にもう二組冒険者が参加します。中堅クラスだそうです」
「なるほど。……ふむ、明日また来たまえ。役に立ちそうな道具を用立てておこう」
「ほんとっすか!?いつもありがとうございます!できればなんかこう、破壊力のあるやつが欲しいっす!」
「それは無理だ」
「どうしてっすか?……あ、僕には才能がないからとか……」
「違う。君が何かを傷つけたり、ましてや殺している所など想像もしたくないからだ。私はそんなことに協力はしない」
「ええ……そんな理由で?」
「……そんな理由、だと?君は命を奪う事の重さや、その罪を理解していないようだな」
「魔物をやっつけたいだけっす」
「なら剣なり弓なり好きなものを使え。ただし、私の見えない所でやってくれ」
「……説得するのは無理みたいっすね」
「ああ。……ごめんな」
「あいや、僕もちょっと思いついて言ってみただけなんで……」
「君がミンチにしてこね回すのはおいしいお肉だけでいい。だからハンバーグを作ってくれ」
「了解っす!」
「ただし!キャキャロットを混ぜることは許さん。シカクオニオンだけは許す。甘くてうまいからな」
「キャキャロットだって甘いのに……もしかして、先輩もリィと同じでキャキャロットダメなんですか?」
「あんなものは馬にでもくれてやればいい」
「えー、おいしいのに……」
その日の夕食は、言われた通りオニオニオンを刻んでハンバーグに入れた。
「おお、オニオニオンが混ぜてあるじゃないか。うんうん、この甘味だ……」
当たり前のようにやって来た先輩は、笑顔でハンバーグを食べている。
「……なんかいつもよりでかい」
かさが増えて、リィにも好評だ。
ちなみにキャキャロットも入れた。すり下ろして。
・・・・・・
次の日、早起きしてお弁当用のサンドイッチを作る。
「あリィ、起こしちゃった?おはよう」
「なに作ってる」
「サンドイッチ。お昼に先輩と食べようと思って」
「またあいつの所か。いちおう、油断するな」
「なんでさ」
「あいつはヘンなにおいがする」
「またそれ……?大丈夫だって」
「ヘンなことされるぞ」
「先輩にだったら歓迎」
「ふん、ハルトもヘンなやつだな。……魔術の特訓するんだろ。じゃ、今日はわたしも弓の練習する」
「お互い、初クエストに向けて頑張ろうね」
「ん。……うめ」
「あ、ハムつまみ食いしないで!」
「気にするな」「気にするよ!」
魔術学園へ向かう。先輩の部屋の扉を開こうとした時、中から声が聞こえてきた。
「…………の進捗はどうなっている」
「順調だよ。全て計画通りだ」
「最近はマロードの男と遊びまわっているようだな。……いいか、貴様が特別研究員でいられるのは、たまたま……………からに過ぎない。成果が出せなければお前などすぐに…………されるのだ」
「おお、おお、ありがたいね。卑しいマロードなぞのために、高貴なるティン人である貴方様がお説教を下さるとは!」
「ふざけおって……」
「.........釘なんぞ刺されなくとも、求められた成果は出す。黙って待っていろとヤツに伝えろ」
「フン、いけ好かない女だ……」
「やば、出てくる……!」
とっさに扉の裏に隠れてやり過ごす。先輩の部屋から出てきた陰気な顔をした男は、ぐちぐちと先輩への罵倒をつぶやきながら歩いていった。僕はこっそりその背中に中指を立てた。……両手で。
「……もう入ってきていいぞ、ペプシ君」
「……っ!?」
そっと扉の影からのぞいてみると、先輩がにやにやしながらこっちを見ていた。
「な、なんで分かったんっす?」
「君の魔力はとても独特なにおいがする。君の事ばかり考えていたら、離れていても感じ取れるようになってきた」
「……うわぁ」
「引くな。梅干しになるぞ、私が」
「いや、だって……きしょいっす、さすがに」
「あーあ、梅干しになった。梅干しになりました。私はしわしわで酸っぱいだけの存在です」
「梅干し、食べたいっすねえ。お茶漬けの上に乗っけて、崩しながらかきこむっす」
「ふうむ、渋いな。で今日用意してきた道具だがこれだ」
「なんすか、これ……お札?」
「ふっふっふ……これはな、術師用の識別タグだ」
「なんすかそれ」
「ちょっと外に出よう」
「いいですけど……?」
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