第14話 脱法ヒール、バレる。~ジャパニーズ・ドゲザで切り抜けろ!~
その後一か月くらいは、ダンジョンで無許可の辻ヒーラーをして荒稼ぎした。このままいけばオーブン付きの魔導コンロや魔導掃除機を買うのも夢ではないと考えていたが、ある日家に修道士がやってきて教会に連れて行かれ、穏やかな口調だが目が笑っていない司祭に、僕たちの『盛んな有償での治療行為』が『教会への不義、ひいては神への不敬』だと『誤解』される危険があるので、教会のヒーラーとして登録するか、数年間の『奉仕労働』をするか選べと言われた。僕がためらうことなくジャパニーズ•ドゲザを繰り出してみっともなく謝り倒すと、司祭はドン引きして、反省しているのはよく分かった、もう二度としないなら許すと言ってくれた。
「はー……死んだと思った。なんとか切り抜けたね」
「なにあれ。急に倒れるやつ」
「あれは土下座だよ。プライドを投げ捨てて相手の怒る気を奪う、転移者の中でも限られた人にしか使えない必殺技」
「ふーん。おなか痛くなったのかと思った。なんであんなに怖がってたの」
「あの司祭さん、僕らが舐めた真似したからブチ切れてたじゃん!」
「……そうなの?怒ってないように見えた」
「いやいやいや、目に殺気がこもってたよ!」
「どうでもいい。明日もダンジョンで稼ぐ」
「ダメだって!バレたら今度こそ奉仕労働送りにされるよ!」
「む……それは困る」
「あのさ……そろそろ僕たち、真っ当な方法で稼いだ方がいいんじゃない?二人で冒険者ギルドに登録して、クエストを攻略しようよ」
「…………ハルトはそれでいいの」
「うん。リィと一緒なら、楽しく冒険できそう」
「エイアは」
「先輩?」
「放っておいていいの」
「別に、ギルドに登録したから先輩に会えなくなるわけじゃないし……なんで?」
「……分かってないならはっきり言う。エイアはハルトのことが好き。あなたと一緒にいたがってる。それなのに、わたしとパーティーを組んでいいの」
「あー……そゆこと。……正直、今の僕が先輩のそばにいても、役に立てないと思うんだ。先輩は一人でなんでもできるし、僕は先輩みたいに魔法の才能もないから。だから色々経験を積んで、レベルアップしたいんだ」
「エイアはお前に何かして欲しいわけじゃないと思う。そばにいて欲しいだけ」
「うん……だろうね。役に立てるようになりたいって思うのは、僕の勝手な意地」
「……そう。なら、わたしはいいよ」
「それじゃ、さっそく冒険者ギルドに行こう。善は急げっす!」
「めんど……」
「いいって言ったじゃん!」
「めんどくないとは言ってない。紙は全部ハルトが書いて」
「はいはい……」
・・・・・・
ギルドにはなんか強そうなオーラを放つ冒険者たちがうろうろしていて緊張した。気のせいか、リィを見てひそひそ話をしている人が何人かいる気がする。
「こんにちは、冒険者ギルドへようこそ!ご用件はなんですか?」
「冒険者として登録がしたいんっすけど」
「はい!では、こちらの書類に必要事項を記入してください。その後、こちらが用意したクエストに挑戦していただき、無事成功すれば、ギルドへの加入が認められます」
「クエスト……さすがに、書類を書くだけで冒険者になれるほど甘くないっすか」
「お手数をおかけします。ですが、最低限の実力がないと危険ですので」
「なんでもいい。さっさと終わらそう」
書類を書き、受付に出す。
「……キリハラ、さん。技能欄の『回復、光魔法』というのは、修道士と魔術師の掛け持ちをされているという事でよろしいでしょうか?」
「や、回復も魔法っす」
「回復……魔法?それは、どういうことでしょうか……」
「どういうって……こういうことっす。えい」
「……っ!じ、十連勤の疲れが消えていく……。なるほど、回復魔法というものがあるのですね。魔術にはあまり明るくなく……失礼いたしました」
「いえいえ」
僕のプロフィールが書かれた書類を脇に置き、受付の女はリィのプロフィール(全部僕が書いたんだけど!)に目を通し始めた。
「……え?リィ・ミストルードって……いえ、でも、こんなに若いはずが……」
「なんか言いたいの。言え」
「……念のため確認させていただきたいのですが、あなたは五年ほど前から、フィリアの丘のダンジョンで冒険者の救助を行っていますか?」
「ん、やってる。なんで知ってるの」
「駆け出し冒険者の口から、何度もあなたの名前を聞きました。あなたが普通なら誰も助けないような回収困難な死体まで回収して下さったおかげで、助かった命が数多くあります」
「……あ、そ。別に、金が欲しかっただけ」
「珍しい、リィが照れてる……」
「うっさいだまればか」
「あなたがいらっしゃったら是非会ってお礼が言いたいと、ギルドマスターから申し付かっております。奥の応接室にご案内いたしますね」
言われるがままついて行くと、僕たちには不似合いに感じられるほど豪華な部屋に着いた。緻密な刺繍の施された絨毯に、背もたれが金メッキで縁取られたふかふかのソファ、覗き込むと顔が映るほど磨き上げられた黒檀のテーブル……全部集めたら、いくらくらいになるのだろうか。
「なんか、すごいことになってきたね……」
「……ん」
「……緊張してる?」
「ひてない」
「噛んでるじゃん……。僕も緊張してきたな、自己紹介の練習しとこ。わたしは魔法使いハルト、戦いはできませんが、癒しの術が使えます」
扉が開き、威厳ある白髪の老人が入ってきた。じろりとこちらを見た顔には、左の額から鼻にかけてカッコいい古傷が走っている。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。気軽に感想をいただけると励みになります。




