第13話 十年の留守番、夜空の約束
肌寒さに目が覚める。部屋の外へ出てみると、玄関の扉が開いていた。なんとなく予感がして、何かに誘われるように外へ出る。
リィは家の壁に背中を預け、ぼんやりと空を見ていた。何も言わずに少し離れた隣に座り、同じように空を見る。星空と僕との間に、少しほつれた洗濯紐が見えた。
「……ねえねえリィ、見て見て」
「…………?ぷへっ、変な顔」
「さらにこの顔……光ります!」
「ぷひゃひゃひゃはっ………。ハルト、ばかみたい」
「でしょ~」
「自慢するみたいに言うな」
「バカなのはいいことです。なぜなら、リィが笑ってくれたから」
「……………。ハルトは、いつも優しい」
「そう?普通だと思うけど。僕は楽しいのが好きなんだ」
「……さっきは、急に怒ってごめん」
「はい」
「……お父さんが、帰ってきたと思ったの」
「そっか」
「お父さんは、冒険から帰るといつも、みんなの服を洗ってくれた。わたしとお母さんが買い物から帰ると、お父さんが服を干してて、わたしに気づいたら手を振ってくれて、だから……」
「……うん」
「ずっと、ずっとそんなこと忘れてた。お父さんが帰ってきたとき寂しくないように、一人でここに住むことを決めたはずなのに……いつの間にかいろんなことがどうでもよくなって、お父さんの事も、お母さんの事も、思い出さなくなってた。
でも、ハルトが家を明るくしてから……いろんなことがどうでもよくなくなった。笑うとか、しあわせとか、そういうのが昔みたいに戻ってきた。……でも、戻ってきたら……お父さんとお母さんのこと色々思い出して、すごく悲しくなった。だから今日は、ずっと泣いてた」
「知ってた。まぶためっちゃ腫れてるし」
「!…………ばかきらいぶったたく」
「ごめんごめん。……ねえ、聞いていい?リィのお母さんは、その、亡くなったの?」
「わたしの目の前で、教会の兵士に殺された」
「………え?」
「半分魔物になってた。遺跡の中でまろーどに捕まって何かされたんだって言ってた。お父さんは……お母さんを逃がすために、遺跡に残ったって」
「人を……魔物に?そんなことが……」
リィは胸元を探ると、いつも首から提げている小さな袋を取り出した。中から黒光りする鉱物を取り出し、手のひらに乗せて僕に見せる。
「これは……?花のつぼみみたいな形だね」
「これが、悪いまろーどを見つける手がかりになるはずだって言ってた。それを教会の人に渡して、いい子でお父さんを待ってなさいって」
「そうだったんだ……あれ、じゃあなんでリィが持ってるの?」
「教会のやつらはなにもしてくれなかった。だから、返せって言って取ってきた」
「それで、それからずっと独りで?」
「ん。ダンジョンで死んだことも、はらぺこで倒れたこともある。まだ生きてるのは、お母さんが空の上から見てくれてるのと、ササキがよくご飯を作りすぎるうっかりものだったおかげ」
「強運の持ち主だね」
「ん。さいきょー運」
「なにそれ」
「さいきょーの運」
「略す意味なくない?」
「あるし。かっこいいし」
「さいきょー運?」
「ん」
「そうかな……?」
「そうだよ」
しばらくそうして取り止めのない会話を続けていると、リィがふと思い出したように金貨を二枚取り出し、僕に渡した。
「くれるの?なんで?」
「ご飯作ってってお願いした。十日で金貨一枚。今日で十日目。もう一枚は、次の十日分」
「…………」
「足りなかったらもっとやる。だから、まだうちにいてほしい」
「……リィ」
「いたひ。はあせ」
「お金なんていらないよ。僕らはもう、パーティーでしょ?」
「ほっぺた伸びたらどうする、ハルトのばか。………でも、ありがとう」
「うん。これからもよろしくね」
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